第二幕その七
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第二幕その七
「じゃあ行くがいい。僕はそれを温かく見守ろう」
「有り難う」
彼は友に感謝の言葉を述べた。
「彼女は何処にいるんだい?」
「今夜この場所で」
「わかった、今夜だね」
「はい」
ベルシは頷いた。
「では行こう、僕は一人で行く」
「シェニエ」
ルーシェは友を気遣った。
「大丈夫さ」
だが彼は笑顔でその心配に応えた。
「自分の身位守れるさ。かっては軍人だったしね」
「そうか、ならいい」
言っても引く男ではない。ここは折れることにした。
「ただし、捕まらないようにな。君は狙われている」
「わかっている」
わかっていようとも愛の為に死地に飛び込むのも詩人であった。シェニエは詩人である。
彼等は別れた。シェニエとルーシェは隠れ家に、ベルシはマッダレーナのところに。そして密偵はジェラールのもとに。
夜になった。橋に火が点いている。見ればパリの所々に火が灯されている。
これが鯨油であった。それまで貴族達のものであった夜の灯りを民衆が手に入れたのだ。
「これで首を刎ねられた貴族の屍も焼いてやれ」
灯りを点ける男が言う。パトロールの警官達はそれを目を細めて見ている。
「いい心掛けだ。貴族達をギロチンに送るのが俺達の仕事だからな」
彼等は街の警備が主な仕事ではない。夜の闇に紛れてパリから逃れようとするジロンド派や貴族の残党達を捕らえるのが主な仕事だ。
「ほら、来い」
見れば既に一人捕らえている。法衣を着ているところを見ると僧侶か。かって僧侶達も貴族達と共に特権階級にあった。むしろ貴族達よりも力があった。
「断頭台が待っているぞ。その前に全て吐かせてやる」
警官の一人が僧侶の尻を蹴飛ばす。最早人間として扱ってはいない。
「来い、豚が」
そして乱暴に引き立てて行く。僧侶の顔はまるで肉屋に連れて行かれる牛の様であった。
「おい」
その僧侶の背を見ながら別の警官が同僚に言った。
「俺はあの坊さんを知っているのだが」
「そうなのか」
言葉をかけられたその警官は意外そうな顔で応えた。
「あの坊さんは別に悪い人じゃないぜ。むしろいい人だ」
「そうなのか」
「ああ。困っている人も助けていたし真面目に教えていた。私腹を肥やしたりもしていなかった」
「そうか。しかしそれは絶対に言うなよ、俺以外には」
「わかってるさ」
その警官は顔を顰めて答えた。彼等は親友同士なのだ。
今は貴族であるだけで、僧侶であるだけで罪であったのだ。革命に異を唱えるだけで罪であったのだ。
しかし誰もそれには言わない。革命こそが絶対の正義であるからだ。そしてそれに逆らうことは絶対に許されないことであるからだ。もし逆らえば待っているのは死だけであった。
「行こう。まだ回るところはあ
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