第二幕その七
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る」
「ああ」
彼等は僧侶を引き立てていく同僚と別れ次の巡検場所に向かった。そしてそこには誰もいなくなった。だがすぐに影が姿を現わした。
「ここか」
あの密偵であった。キョロキョロと辺りを探っている。
「もうそろそろ来る頃かな」
彼はそう呟くと物陰に消えた。やがてそこに一人の女が姿を現わした。
「ここね、ベルシが言ったのは」
マッダレーナであった。みすぼらしい赤い服に黒い靴、そして上からヴェールを被っている。何かから身を守ろうとしているようであった。
先程の警官達は貴族や僧侶と見れば容赦なく捕らえる。そう、彼女も例外ではないのだ。
「記念の像。夜見るとこんなに無気味なものだったの」
マラーの像を見て呟く。それはまるで夜の闇の中に立つ魔神の様であった。
「マッダレーナか」
密偵は物陰から彼女を見て呟いた。
「さて、肝心の獲物は来るかな。彼女は言うならば獲物を捕らえる鷹か。いい鷹であってくれればよいが」
そう言ってニヤリと笑う。そして物陰に姿を隠した。
やがて誰かがこちらにやって来た。灯りの中にぼんやりと姿が見えている。
「あれは」
マッダレーナも密偵もそちらに目をやった。その灯りの中に見える男はゆっくりと近付いてきていた。
「あの人だわ」
マッダレーナはその姿を片時も忘れたことはなかった。あの時から。そう、彼が今姿を現わしたのだ。
「アンドレア=シェニエさんですね」
「はい」
シェニエはマッダレーナの問いに答えた。彼は彼女の手紙のことは知っている。しかし誰なのかは知らない。
「貴女が手紙を送って下さったのですね」
「はい」
マッダレーナは答えた。
「私です」
「そうなのですか。では私にお会いしたいというのは」
「はい、それも私です」
彼女はそれを認めた。
「そうなのですか。ではよろしければお名前を教えて頂きたいのですか」
「おわかりになりませんか」
マッダレーナは問うた。
「申し訳ないですが」
シェニエはそれに対してうなだれて答えた。
「仕方ありませんね」
それもそうだった。あれからもう何年も経っているのだ。
密偵はそれを用心深く窺っている。物陰から見る。
「いいぞ、その調子だ」
彼は場所を変えた。そして二人に近寄る。
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