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久遠の神話
第四十六話 また一人その十三
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「私は自分の理想を実現する為に戦いますから」
「そして僕は戦いを止める為に戦う」
「戦うことは同じでも目的が違います」
 その相違故にだというのだ。
「ですから私は上城君にとっては敵になります」
「そうですよね」
「はい、ですが」
 それでもだというのだ。
「若しその彼が世界征服だのを考えていれば」
「先生の目的も、ですか」
「私は独裁主義ではありません」
 このことは否定する。
「とはいっても民主主義が絶対かといいますと」
「また違いますか」
「この世には絶対のものはないのです」
 教師というよりは哲学者の言葉だった。とはいっても哲学者が教師をすることも教師が哲学者であることもあるが。
「ですから民主主義もです」
「絶対ではないですか」
「間違いが起こりやすいシステムではあります」
「選挙でおかしな人を当選させればですか」
「ヒトラーを誕生させたのは何か」
 俗によく言われているが高代はあえて言った。
「それは民主主義です」
「当時のドイツ人が選んだんですよね、ヒトラーを」
「そです。圧倒的な支持で」
「ヒトラーを当選させてでしたね」
「ドイツの総統にしました」
 大統領と首相を兼任したそれになったのだ。総統はドイツ語で『フューラー』といい指導者と訳すこともできる。
 彼をその指導者にしたのは誰か、そしてどのシステムが彼を指導者にしたのか、民主主義を語るうえでどうしても外せないことだ。
「そうしたのです」
「魔王を総統にしたんですよね」
「いえ、魔王ではないです」
「違うんですか?」
「ヒトラーが悪かというのは戦後の考えです。しかも
「しかも?」
「国際連合の中での考えです」
 ヒトラーと戦った連合国が作ったものだというのだ。
「あくまで彼等の価値観でしかないです」
「国連のですか」
「もっと言えばあの常任理事国の五国です」
 どういった国々かはこれまた言うまでもなかった。
「彼等はファシストと戦ったという大義名分の為にです」
「その為にヒトラーをですか」
「悪にしたのです」
 そうしたというのだ。
「彼等にとっては必然ですが」
「それでもですか」
「ヒトラーが悪だったかというと」
「かなりの人を殺してますよね」
「秘密警察、ゲシュタポを置き」
 礼状なしでしかも超法規的な捜査も行なえる組織だった。その剣呑さは確かに歴史にある通りである。これは事実だ。
「ユダヤ人もロマニも殺しました」
「身体障害者の人もですよね」
「他にも同性愛者を」
「かなりの人を殺してますよね」
「それは事実です。ですが」
「それでもですか」
「ヒトラーはその政策を堂々と掲げ当選し」
 ドイツ人がそれを認めてだというのだ。
「破綻した経済を立て直し失業者に仕事を与え」
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