第二幕その四
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第二幕その四
「僕は嘘は言わない、これは神に誓おう」
彼もまた正直な男であった。
「この手紙の出所はある小さなサロンだ。何か退廃的な匂いがする。そしてその裏に僕は火薬の匂いを感じたんだ」
「それは君の杞憂だ」
「いや、僕はそうは思わない」
彼はそう言うと首を横に振った。
「君の運命は今虎の牙の中にある。すぐにそこから逃げ出すんだ。さあ、この通行証を手にとって」
そして再びその通行証を手渡そうとする。
「いや、私はそんなことは信じない」
しかしシェニエはそれを受け取ろうとしなかった。
「君が信じる、信じないの問題じゃないんだ、僕は君を救いたいんだ」
ルーシェは無理にでもその通行証を渡そうとする。しかしシェニエはそれを受け取らなかった。
「このパリがどんな街か君も知っているだろう」
ルーシェは言った。
「昔から酒と淫らな宴が支配してきた街だ。浮気な女がそいじょそこらにたむろしている」
「だが彼女は違う」
シェニエはその言葉を否定した。
「違わないさ、だが僕はそれを君に見せようとは思わない」
そして言葉を続けた。
「君にこの通行証を受け取ってもらうだけだからね」
「だからそれは受け取れないと・・・・・・」
「頼む、これは僕の命なんだ」
ルーシェは自らの命のことまで出した。
「これを手に入れる為にどれだけ苦労したか・・・・・・。僕はまずこれを手に入れたんだ。自分のものになぞ目もくれず」
「ルーシェ・・・・・・」
シェニエはここでようやく友の気持ちを理解した。彼は自分が助かることよりまず友を救うことを優先させたのだ。
「受け取ってくれるね」
「うん」
シェニエはようやくその通行証を受け取った。その時だった。
「ん!?」
そこでペロネ橋の方から騒ぎ声が聞こえてきた。12
「何だいあれは」
「有り難いな」
ルーシェはそれを見て微笑んだ。
「シェニエ、天の配剤だ。どうやらジャコバンの奴等が来るらしい」
「奴等が」
シェニエはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「彼等は何故あんなに熱狂的に処刑台を迎え入れることができるのだろう」
彼は群集を見た後首を悲しそうに横に振って言った。
「かっての貴族達に仕え今は処刑台に仕えている。これでは何も変わらない。いや、さらに悪いじゃないか」
「シェニエ」
ルーシェは言葉を出す彼を心配そうに見ている。
「そんなことを言っている時じゃない。すぐにここから立ち去るんだ。皆の気があちらに向いている間に。さあ」
「いや」
だがシェニエはまた首を横に振った。
「私はあの者達を見ておきたい」
「何故だい!?」
「私の敵がどの様な連中かをね。いいかい」
「馬鹿なことを言う」
今度はルーシェが首を横に振った。
「彼等に見
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