第二幕その一
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すことになった。
「またジャコバン党員が一人死んだか」
シェニエはその党員の首を見て言った。
「これで一体何人目なのか」
もう覚えてもいなかった。ある者は今の男のように怒り狂い、またある者は何も語らず死んでいった。
「今度は誰か」
彼はふと思った。
「ダントンかカミュか。それとも」
言葉を続けた。
「ロベスピエール自身か」
それを聞いた周りの者が彼を不審な目で睨んだ。
だが彼はそれには意を介さなかった。そして踵を返して処刑場を後にした。
「死ね、アバズレ!」
今度は女性を罵る声がする。
「今まで散々俺達から搾り取りやがって。今度は御前の命を搾り取ってやる!」
「そうだ、とっとと死にやがれ!」
今度は貴族の婦人らしい。だがシェニエはそれを見るつもりはなかった。そのまま刑場を後にした。
「今まで彼女達を蝶だの花だの賛辞を送っていたというのに」
だが彼は歩きながら呟いた。
「今では罵声を浴びせるか。それが理性というものなのだろうか」
哀しい声であった。だがそれを聞いた者はいなかった。
これが今のフランスであった。外では他の国々と飽くことなき戦いを続け内ではこうして血の粛清が行なわれる。最早この国で血が止まることはなかった。
「号外、号外だよお!」
新聞売りが盛んに人々に叫びたてる。
「また革命軍が勝ったぞお!」
シェニエはふとその新聞を買った。見ればフランス軍はその圧倒的な兵力を以ってオーストリアやプロイセンの軍をまたしても打ち破ったという。
「また勝ったか」
フランス軍は連戦連勝であった。これは徴兵制により他の国々に増して兵力を集められるからであった。フランス軍はその圧倒的な兵力で以って戦いを有利に進めていたのだ。
「だがこれにより多くの者が死んだ」
フランス軍の戦い方は犠牲を恐れなかった。兵士はすぐに多量に手に入る為幾らでも使い捨てにすることが出来た。実際にそうしなければ勝てないところもあった。
「それにより革命は守られる、か。多くの血が流れて」
バスチーユが襲撃されてから多くの出来事があった。だがその殆どが流血の惨事であった。
バスチーユもそうであった。興奮した群集がバスチーユに雪崩れ込み監獄長を虐殺したのが真相であった。シェニエはジャコバン派の宣伝を嘘だと知っていた。
国王も王妃も処刑された。どれも裁く法がないのに、である。
「王妃へのあれはどういうことだ」
シェニエの顔は歪んだものになった。忌まわしい、汚らわしいものを見た時の顔に。
王妃マリー=アントワネットはオーストリア出身である。その母は偉大なるオーストリア中興の祖マリア=テレジアである。父は神聖ローマ帝国皇帝フランツ=シュテファン=ロートリンゲンであった。彼女はその両親の愛を受けて育っ
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