第一幕その九
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もうものだ」
彼は新教徒めいたことを言った。
「あのジェラールというものは神の御教えを先に知ったのだ」
そしてジェラールが行った方へ顔を向けた。
「あの若々しい心がこれからの世界を変えていくだろう」
その言葉は予言めいたものであった。
「しかし」
シェニエはここで言葉をとぎらせた。そして再び口を開いた。
「その心が何処へ行くかまでは誰にもわからない。神以外は」
どうやら予定説の影響を受けているようだ。これもフランスの外でうまれそだったせいであろうか。
「その行く道は一つではない。中には恐るべき地獄の道もある」
彼はそこである人物のことを思い出した。
「ロベスピエールといったな」
若い男である。法律家の家に生まれたが幼くして両親をなくし苦学しながら弟や妹達を養った。そして今やフランスにその名を知られようとしている情熱的な政治家である。
シェニエはその人となりに悪い印象は受けなかった。生真面目であり清廉だった。だがそこに彼はロベスピエールの持つ危険性を感じ取っていた。
「人は時として不浄なものも知らなければならない」
それは詩人というより哲学者の言葉であった。
「さもないとその不浄がどういうものか、そしてそれより怖ろしいものについて無知になってしまう」
この言葉を知らない者も多い。ロベスピエールもそうであるし今ここを去ったジェラールもそうだ。彼等が求めているのは絶対的な正義なのだ。神ではないが神性を持つものなのだ。
「彼等がオリバー=クロムウェルを知っていればよいが」
そして宿敵の国に生まれた一人の男の名を口にした。
オリバー=クロムウェル。ケンブリッジで宗教を学んだ男である。軍人として優秀であり清教徒革命においてニューモデル軍を率いて王党派の軍を散々に打ち破った。そして革命後国王を処刑し反対派を弾圧し自ら護国卿となった。
彼もまた清廉潔白で自らに対し厳格であった。だがそれは他者に対する絶対的な不寛容ともなったのである。
彼にとって清教徒の価値観こそが全てであった。それにそぐわぬ者は皆敵であった。
法にない国王の処刑もそこに根拠があった。自らに逆らう者達も。旧教徒も。その為アイルランドを侵略した。彼にとって旧教徒は敵でしかなかった。
その政治は圧政であった。日常の生活にまで細かく口を挟み英国は鉄の鎖に束縛された国となった。それは彼の死去まで続いた。
「あのようにならなければよいが。いや」
彼はここで危惧を覚えた。
「より怖ろしいものになるかも知れない」
不幸にしてその危惧は的中する。
だがそれをこの時知っているのは誰もいなかった。伯爵夫人はようやく起き上がり家令に声をかけた。
「もう行ってしまいましたね?」
ジェラール達のことを問うた。
「はい。如何致しまし
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