第一幕その三
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のだった。
「私の父上だけですね」
「貴方のお父様は何と」
他ならぬイーゴリ公のことである。彼等の間にはもう一つ考えなければならないことがあった。こちらはコンチャコーヴァの父よりも複雑な問題があった。
「わからない」
ウラジミールは苦い顔でそう答えた。
「父は捕虜だ。私もそうだから」
「何も言えないのね」
「考えることすらできない」
彼は言うのだった。
「今の状況にどうしようもなくなっているから」
「そうですの」
「はい。しかし私は」
それでもウラジミールは言うのだった。
「それでも貴女を」
「私も貴方を」
二人は秘密の逢引の中でそう言い合うのだった。だがどうしても二人の間にあるものを忘れることができなかった。それはどうしようもなかった。
公爵はその中で一人たたずんでいた。宴にも出ず自身に与えられたパオの前で立っていた。夜空の星達を見てただ立っているだけであった。
その中で彼は呟く。己の虚しい心境を。
「疲れ果てた魂には夢も休息もなく夜が訪れても慰めも忘却もない」
その二つすら得られない。彼の嘆きは多きかっら。
「私はこの夜の闇の中で昔のことを悔やむだけ、宴も勝利もなく今あるのは惨めな結末と破壊があるだけ。敗北とはこのようなものだった」
それを感じれば感じる程辛くなる。その辛さがさらに彼を責め苛むのであった。
「祖国の為に命を捨てたが軍は壊滅しこうして虜囚として生き恥を晒しているだけ。何という運命か。だが」
彼は顔を上げたままであった。うなだれることはない。それもまた言うのだった。
「必ず私はルーシーに帰る。そうして愛する祖国と妻を」
妻の顔が夜空に浮かぶ。愛する者の存在がさらに心を奮い立たせるのだった。
「守ってみせる。何があろうとも。しかし」
それでも思うのは。祖国の危機であった。
「妻もまた悲嘆にくれ祖国は敵の馬蹄に怯え続けている。全ては私のせいだ」
また己を責め苛む。どうしようもなく。
「希望はなくとも。何があろうとも必ず」
しかし誓う。神と他ならぬ己自身に対して。
「私は祖国を守る。妻もまた」
空はまだ暗い。しかし公爵はそれでも上を見続けている。その彼のところに彼の従者がやって来たのだった。
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