第四幕その四
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第四幕その四
「公爵がおられる」
「帰って来られたのだ」
「おい、酔っ払い共!」
民衆はエローシカとスクーラを見上げて声をかける。彼等も二人の有様は知っていたのだ。だからここで酔っ払い達と呼んだのである。
「どういう心変わりだ!?」
「何のつもりだよ」
「何のつもりもないさ!」
「今これを伝えてるだけさ!」
二人はそう彼等を見下ろして言い返す。彼等にしてもここが正念場なのだから。
「わかったら早く行きなよ!」
「公爵様を出迎えるんだ!」
「要領のいい奴等だな」
「全くだ」
そのことに釈然としないものを感じながらも。それでも喜びを前にして彼等は笑顔になろうとしていた。彼等にとっての絶望が去り今幸せが訪れようとしていたからだ。
「しかし」
「そうだな」
彼等もそれを笑顔で言い合うのだった。
「公爵様がおられるのなら」
「すぐにでも」
「公爵様!」
「ようこそお帰り下さいました!」
彼等は勇んで公爵のいる城門のところへ集まる。エローシカとスクーラはそれを見てほっと胸を撫で下ろすのだった。
「これでよし」
「助かったな」
そういいあって鐘楼から下りて去ろうとする。しかしそこに。
「待つのだ」
「えっ!?」
「まさか」
そのまさかだった。ロシア正教の司祭が一人彼等の前に立っていた。仁王の様な顔で。
「逃げられたと思ったな」
「それはその」
「つまり」
「残念だがそうはいかん」
彼は厳しい調子で二人に告げる。
「わしの目の黒いうちは。許さぬぞ」
「それでは一体」
「わし等はどうなるんで」
「本来ならば死罪だ」
やはりそれであった。
「全く以って許せぬ。よくて縛り首」
「悪ければ」
「何になるかさえわからぬ」
二人への返答は脅しではない。ロシアの処刑は血生臭いことで有名だがこのルーシーと呼ばれた時代からそうなのだ。彼等もそれを知っているからこそ顔を青くさせた。
ところが。ここで司祭は急に笑顔になった。そうして言うのだった。
「だが今は喜びの時。我等の希望が帰って来た」
「へい」
「そうですね」
「それを第一に我等に伝えてくれたのはそなた達であるのも事実、だからこそ」
彼は言葉を続ける。
「不問に処す。感謝せよ」
「はい」
「神と公爵様と」
「正教にな。それでは」
司祭は彼等に赦しの言葉を与え。それからまた言うのだった。
「行こうぞ、公爵様のところへ」
「ですね」
「希望のところへ」
何だかんだでちゃっかりとついて行く二人であった。そこには民衆と軍勢が集まっていた。その中央には公爵とヤロスラーヴナがいる。まるで主の様に彼等の輪の中にいた。
「では愛するルーシーの民達よ」
公爵は厳かに彼等に告げた。
「これより私は偉大
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