第八章 望郷の小夜曲
第八話 月下の口づけ
[1/23]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
山脈に沈んでいく夕日が、緩やかに広がる草原を赤く染め上げている。
万色に彩られた世界が、赤の世界に移り変わり始めていく。
そんな中、夕焼けの光を浴びながら丘の上に立つルイズたちは、夕日に色に染め上げれられた草原を見下ろしていた。
息を飲む美しさ。
絶景。
昼と夜の境。
自然が生み出す一瞬の美。
しかし、そんな美景を目の前にして、ルイズとキュルケは、感動に打ち震えることなく、また、息を飲むようなこともせず、ただ、ショボつく目を擦りながら顔をふらつかせていた。
時折頭だけでなく、身体全体も揺れ、頭から倒れそうになっているが、その度にぎりぎりの所で気が付き、慌てて頭を振るということを何度も繰り返していた。
しかし、それも仕方がないことであった。高貴な貴族であるルイズとキュルケにとって、歩きでの旅の経験など豊富な訳もなく。ロサイスで一晩休んだとはいえ、目が覚めてから一日
中歩き続けたため、既にルイズたちの疲労は限界を越しており。ルイズたちは、まるで鉛を飲み込んだかのように全身を重く感じていた。
そんな今にも倒れ伏し、いびきを上げそうな二人の姿に、シエスタは何度も後ろを振り返っては心配気な視線を向けている。
「あの、ミス・ロングビル。二人共もう限界のようですが」
「…………」
このまま歩き続けるのは流石に無理っ! と判断したシエスタは、横に立つロングビルに声をかけるが、ロングビルはシエスタの声掛けに応えることなく、目を細め何かをじっと見つめている。
「ミス?」
「……ん? ああ、すまないね。ちょっと見とれていたよ……余りにも綺麗な景色だからね」
「え? ……そう……ですね」
ぼうっとした顔をしていたロングビルだったが、シエスタの訝しげな顔に気付くと、目を細めたまま微かに口の端を曲げると小さく首を振った。シエスタはロングビルの言い分に頷いたが、納得はしてはいなかった。
なぜなら、丘の上から草原を見下ろすロングビルの顔には、綺麗な景色に見とれていたと絶対に言えない。
余りにも複雑な感情が浮かんでいたから……。
空から降り注ぐ月の光を遮る枝葉の下で、少女たちの苦痛に呻く声が闇の中響いてた。
「ま……ま、だ、だいじょうぶよ」
「まだ、いけ、るわ、よ」
「……こりゃもうダメだね」
木々が生い茂る森の中。地面の上でうめき声を上げ、それでも前へと進もうとするルイズとキュルケを見下ろしながら、ロングビルが苦笑いを浮かべている。
「ウエストウッド村でしたっけ? もう日が落ちましたし。明日にしませんか」
シエスタが提案すると、ロングビルは小さくため息を着いた。
「そうだね。これじゃ仕方ない
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ