第三幕その三
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第三幕その三
「まさか貴方は」
「先に行ってくれ」
彼はここで他の者に先に行くように言った。そうして二人だけになった。
「私は。祖国を見捨てることができません」
それが彼の言葉であった。
「ですから」
「そんなこと。私は」
「駄目なのですか?」
「もう貴方だけしか見えないのです」
今にも泣きそうな顔で彼に告げた。
「それなのに。どうして貴方は」
「それは私も同じです」
ウラジミールも同じであった。顔に苦しみが漂っていた。
「ですが。それでも私は」
「嫌です!」
コンチャコーヴァは遂に泣いた。そして言うのだった。
「私は貴方と共にいたい、永遠に」
「姫、ですがそれは」
「御願いです、ずっとここに」
ウラジミールに身を投げ出した。そうしてまた叫ぶ。
「一緒にいて下さい。何でも差し上げますから」
「何でも・・・・・・」
「そうです」
また彼に告げた。
「ですからここは」
「私に残って欲しいと」
「なりませんか?」
泣いていた。涙に濡れる顔で彼に問うた。
「それは、もう」
「しかし私は」
散々に揺れる心で。彼は言う。だがその言葉は震え揺れていた。それが彼の心そのものであった。
「それはもう」
「なりませんか」
「お許し下さい」
こう言うしかなかった。
「私には祖国が」
「私には貴方が」
二人の言葉が重なった。
「それ以外にはもう」
「見えはしない」
「私しか」
今のコンチャコーヴァの言葉が胸に突き刺さった。
「そうです、貴方しか」
「それは・・・・・・」
ここで言おうとする。しかしそれは容易には出ない。
「私は・・・・・・私は」
「我が子よ!」
ここで公爵の声がした。
「父上!」
「何をしているのだ。行くぞ!」
「行ってはなりません!」
またコンチャコーヴァが止める。
「貴方は。私と共に」
「来るのだ。早く!」
また公爵が叫ぶ。
「さもなければ。もう二度と」
「二度と」
「祖国に帰ることはできないのだぞ。それでもいいのか!」
「祖国に」
祖国と聞いてその心がまた揺らいだ。
「祖国が。私は祖国を救う為に」
「ルーシーを救うのではなかったのか!」
また我が子に問うてきた。
「だからこそ共に行くと誓ったのではないのか」
「そうだ、私は」
決意しかけた。
「その為に今は」
「私は貴方のものです」
しかしコンチャコーヴァも必死になっていた。その必死な声で彼にすがりつく。
「ですから。貴方も」
「私も。貴女が」
これもまた彼の偽らざる心であった。
「離れられない。しかし」
「もう時間だ!」
また公爵が息子に告げる。
「さもないと。御前は祖国には」
「それはわかっている」
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