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銀河英雄伝説<軍務省中心>短編集
夕映えの中で
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ルナーに向けて、何事かを考えているようだったが、やがて意を決したように顔を上げると、改めて背筋を伸ばし、手早くいくつかの書類を抽斗から取り出した。威厳のある突き刺すような瞳で、怪訝そうな顔の部下を見返す。
「これは私が管理する機密書類の目録だ。中には卿も知らぬ調査事項や計画も含まれている。この目録は私にとっては不要なものだ……分かるな?」
フェルナーはほんの半瞬考えて、すぐにしたたかな笑みを浮かべた。
「閣下の頭には全て入っている、ということでしょう。つまりこれは、閣下ご自身のために作成されたものではなく、他の人間に……私に見せるために作られたのだと解釈してよろしいでしょうか」
物分かりの良い部下の返答に、オーベルシュタインは静かに肯いた。
昼の長い7月であるが、窓からは夕日が差し込んできていた。フェルナーは眩しい逆光を感じながらも、まるで上官が夕映えの中に佇んでいるかのような錯覚に陥り、その姿が夕闇に溶けてしまいそうな不吉な印象を覚えた。
「地球教の残党をおびき寄せ、一網打尽にするのだ」
オーベルシュタインは目の前に提示した目録の中の、「地球教壊滅計画」という記載を指差しながら、ぼそりと呟くように言った。彼の語った計画は、すなわち死の床にある皇帝の名で狂信者を呼び集め、暗殺という軽挙に出ようとするところを、待ちかまえて捕えるというものであった。
「無論、陛下の御身に危険が及ぶことはない」
淡々と言い放つ上官に、フェルナーはますます不気味な気配を感じた。
「と言いますと?」
オーベルシュタインは僅かに瞼を閉じてから、再びフェルナーの翡翠の両目へ視線をやった。
「陛下のご病室に関して、偽の情報を流す。明かりが灯り人影があれば、追い詰められた彼らは疑うまい」
そう言い終えると、ついと目を逸らした。その仕草が常の上官のそれとかけ離れており、フェルナーはつきまとう不穏な予感の的中を知った。
「その人影に、閣下自らがなるとおっしゃるのですね」
オーベルシュタインは答えずに鍵のかかる最上段の抽斗(ひきだし)を開けると、一本の使い込まれた万年筆を取り出した。それは彼が日常的に使用している、金のペン先に黄金獅子が刻まれたものであった。
「元帥の任官にあたって下賜されたものだ。卿がその実力で同じものを手にするまで、これを使うと良い」
いつもと変わらず平淡に、明日の予定でも確認しているかのような口調で言ってのける上官に、フェルナーはやり場のない怒りを覚えて声を荒げた。
「閣下は死ぬ気ですか!?そんなものを託されて、私が喜ぶとでもお思いなのですか?」
執務机をドンと叩いて抗議の声を上げるが、フェルナーを見据える2つの義眼は、冷たく光るままだった。
「断言します。帝国の脅威を排除して、皇帝を守って死んだとしても、閣下の真意を理解する者など一人
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