夕映えの中で
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新帝国暦3年の7月。皇帝ラインハルトの病状が日増しに悪化している中、元帥、上級大将らを中心とした会議と、閣僚たちによる閣議が頻繁に行われていた。公然と口に出す者はないが、ラインハルトの死を見据えての必要最低限の対策であった。そのいずれにも出席せねばならない軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタインは、定時過ぎにようやく終えた閣議から戻ると、執務室で出迎えたアントン・フェルナーの敬礼にも応じずにコンピュータ端末へと向かった。
左手で眉間をギュッと押しながらモニタへ目を落とすオーベルシュタインは、さして動かぬ表情からも疲労の色が伺えた。この執務室で迎えた夜明けは、今朝で4回目である。フェルナーは若さにも体力にも自信があったが、上官については年齢も40歳に達し、元々それほど頑健そうでもない。身体でも壊さねば良いのだが…。
「閣下、お疲れでしょう。今日はもうお帰りになった方がよろしいのでは」
フェルナーの余計な差し出口に顔を上げたオーベルシュタインは、息を吐いて首をぐるりと回すと、ああ、と生返事をした。分かり切った反応に、フェルナーもため息をつく。正直なところ彼には、閣議や会議ならともかく、それ以外の用件で上官が根を詰めていることに疑問を感じていた。優秀で明晰な頭脳を持つ上官であるから、皇帝の死後の予測や対策など、既に幾通りもシミュレーションしているに違いなく、今になって慌てる理由など存在しないであろう。唯一、時を惜しんで手がけることと言えば……
「地球教ですか」
思い当たったその言葉をフェルナーが口にすると、オーベルシュタインは再度顔を上げて小煩い部下を睨み付けた。
「否定なさらないところを見ると、当たりですね」
心持ち真剣な表情で上官の顔を見返すが、その上官は視線を僅かに動かしただけで、沈黙を保っていた。その威圧的な沈黙こそ肯定を意味していることを、フェルナーは十分に承知していた。
「閣下、潜伏先の捜索は小官と実践部隊にお任せ下さい。頼りないでしょうが、閣下はもう少し部下に仕事を振り分けて楽をなさるべきです」
トップが寝る間を惜しんで働けば、部下たちも休みづらくなる。そのあたりも考えてほしいものだと言外に匂わせながら、フェルナーは半ば呆れた表情で苦言を呈した。
「そうではない」
部下の言葉が切れるのを待って、オーベルシュタインは表情を変えぬまま、低い声で反論した。
「そうではないのだ、フェルナー准将」
オーベルシュタインはペンを置いて背中を伸ばすと、組んだ両手を額に当てた。重たい頭部が下を向き、フェルナーからはその表情を見ることができなくなった。
「……では、今、閣下が懸念されていることは何でしょうか。小官のごとき非才の身にも理解できるよう、ご説明願えませんか」
オーベルシュタインは表情を隠したまま視線だけをフェ
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