第二幕その四
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第二幕その四
「夫と息子が戦場に向かい随分経ちました。ですがまだ知らせはない」
ヤロスラーヴナは巨大な門を見上げながら言う。その門はまるで絶望の宮殿への入り口のようであった。
「悪い予感に胸が痛み憂悶に覆われる。よからぬことになっているのは間違いありません」
「ですが」
「それでも」
「それでもです」
また侍女達に言う。
「楽しみは過ぎ去りただ一人涙に暮れ夜も眠れず夫を待つだけ。しかし夫はまだ来ない」
彼女もまた夫のことを想うのであった。一人の女として。
「夢に現われる夫の顔は蒼ざめている。かつては優しさと温もりだけを与えてくれた方が。しかしそれでも私は」
「お妃様は」
「ルーシーの女です。ですからルーシーを救う為に」
顔が毅然となる。そうしてまた言った。
「この屋敷の門をくぐります。宜しいですね」
「わかりました」
「それでは」
侍女達はその言葉に頷いた。そうして門の前まで行きそこを開けると。中から娘達が飛び出て来た。
見ればその娘達も乱れた格好であった。髪は散々に散りその服はあちこちが破れており胸も腿も露わになっている。中には何も着ていない娘さえいた。
ヤロスラーヴナは彼女達を見て言葉を失った。娘達はその彼女のところに来て言うのだった。
「お妃様ですね、イーゴリ公の」
「はい」
それでも何とか平静を保って彼女達に答える。
「そうですが」
「ああ、よかった」
「これで私達は助かります」
「助かるとは」
彼女は蒼ざめた顔をさらに蒼ざめさせて娘達に問うた。
「どうしたのですか、この屋敷の中で」
「話を聞いて頂けますか」
「私達の話を」
「無論です」
そう彼女達に答える。
「何があったのか。お話なさい」
「わかりました。それでは」
「私達は」
娘達はヤロスラーヴナのその言葉に救われた顔になった。そうして涙を流しながら語るのであった。
「さらわれたのです」
「村から」
「さらわれた!?」
「はい」
ヤロスラーヴナに対して述べた。
「その通りです」
「ガーリツキイ公爵に」
「兄が。一体どうして」
「御自身の慰みものとする為に」
「周りの者達の褒美とする為に」
「馬鹿な。どうしてそのようなことを」
口ではこう言ったがやはりとも思った。兄のことは昔から知っている。度を外して酒と女を好み異常な宴を好むからだ。この時もそうなのだと内心思った。
「最早私達にとって今は地獄です」
「お助け下さい」
「わかりました」
ヤロスラーヴナは娘達の言葉に応え屋敷の中をきっと見据えた。そうして大きくしっかりと足を踏み出したのであった。
「行きましょう、何があっても」
「お妃様」
「私達も」
「いえ」
同行しようとする侍女達は制した。
「私
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