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SAO−銀ノ月−
フェアリィ・ダンス-FORTUNES-
第五十四話
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だったものの、通り過ぎようとした道場から人がいることを感じたため、念のために道場の様子を見ることにした。
父は用事で出かけているし母は母屋にいることを確認済みだったので、菊岡さんを少々待たせることにはなってしまうが、先に道場の方へと顔を出した。

 そこにいたのは。

「あ……翔希くん」

 そこにいたのは小学校は別だったものの、剣道場に通って来たことで友人になった少女、桐ヶ谷直葉という名の少女だった。
二年前に俺がSAO事件に巻き込まれる前に最後に会った人物であり、俺にとって恩人であるあのキリトの妹であった。

「何だ、直葉か」

 小学校の兄とともに懸命に剣を振っていたことは良く覚えており、俺にとっても妹のような存在だった。
休みがちで体力もあまりなく、二年程度で止めてしまっていた兄がキリトだというのは、SAOの際には気づけなかったが。

「……何だとは何よ」

 俺とキリトが二年間SAOに囚われている間、彼女も成長したようではあったものの、俺の若干ぶっきらぼうな口調に頬を膨らます姿は変わっていなかった。
もう冬になって剣道の全中も終わったのにもかかわらず、コートを着たその背中には、不似合いにも竹刀袋が背負われている。

「で、どうしたんだ今日は」

「ここにもお世話になったから……その、お礼に」

 直葉は俺たちが囚われている間にも剣道を続け、ビデオで見ることになったものの全中でも好成績を叩きだし、有名な高校への推薦が決まっているらしい。
素直に誉めてやりたい気持ちで一杯なのだけれど、SAO事件のせいで全中に参加出来なかった自分には、どうしても黒い感情が隠しきれなかった。

 直葉にもそのことは解っているらしく、俺に剣道のことを話すのは後ろめたさがあるようだ。

「……じゃあ、気が済むまでここにいろよ」

「……うん……」

 背後からの直葉の寂しげな声を、出来るだけ聞かないようにしながら、俺は足早に道場を出ると、そのまま普段住んでいる離れに向かった。
離れとは言っても名ばかりの代物であり、実態は庭に作られた子供用の狭い勉強部屋のような物で、家族に顔を会わせ辛い俺はそこで暮らしていた。

 離れの中に入って押し入れを開けると普段使っている布団が目に入ってきて、四次元に繋がるポケットを持った某国民的青狸のように寝転がりたい思いに駆られるが、その思いをスルーして目的の物を探す。

 ――しかして次に見えるのは、使い慣れていた剣道の用具達。

 ……SAO事件のせいで筋力も大幅に落ちた上に、全中を逃して高校にも通えていない……そんな状態ではもはや、剣道をやることなど絶望的であった。
竹刀を握ることは出来るがそれだけ、直葉のように大会に出ることも出来ないし、たとえ出ることが出来た
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