第百二十九話 一月その二
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「父上のことだが」
「大殿ですか」
「確かに」
「違うのう」
怪訝な顔での言葉だった。
「どうもな」
「はい、以前の大殿とは違います」
「何か怪しいですな」
家臣達も怪訝な顔で言うのだった。
「新たに召し抱えた延暦寺の二人の僧といい」
「何かが違いまする」
「延暦寺にも色々な僧がおられる」
長政もこのことはわかっていた、延暦寺だけのことではないがこの寺にはとかく生臭い話も多いのだ、これは昔からだ。
「平安の頃からのう」
「御仏にお仕えしている筈ですが」
「それでもですな」
家臣達も言う。
「延暦寺は何かと生臭いです」
「ですから」
「そうした僧か」
こう言ったのである。
「だとすれば色々と吹き込んでおるのか」
「まさか織田家について」
「妙なことを吹き込んでいるのか」
長政が危惧しているのはこのことだった。
「だとすれば」
「あの僧達をですか」
「どうにかされますか」
「いや、待て」
ここでこう言った長政だった。
「相手は延暦寺だ」
「あの名札だからですな」
「ここは」
「慎重にいくべきじゃ」
相手が相手だけにだった、長政は延暦寺の恐ろしさをよくわかっておりそのうえで家臣達にこう言ったのである。
「迂闊に手を出せばやられるのは我等よ」
「だからですか」
「うむ、父上のことが気になるが」
それでもだというのだ。
「延暦寺は厄介じゃ、朝倉殿のことが終わってからじゃ」
「必要とあらば織田殿の助けを借りてですか」
「そうして」
「出来るだけ義兄上に迷惑はかけぬ」
しかしそれでもだった。
「だが家のことを考えるとな」
「ああした妖しき者は家の中に置くべきではありませぬか」
「どうしても」
「父上は戦は好まれぬ」
久政はそれもあり戦下手だった、そうだったのだ。
「軽挙なことも為されぬ」
「では大殿のことは安心していいですか」
「今のところは」
「気になるがな」
だが、だった。長政は常識から考えて述べる。
「しかし父上は隠居、しかも控えめな方じゃしな」
「では、ですな」
「大殿の傍の僧達は今の戦の後で」
家臣達も言う。
「落ち着いてからかかりますか」
「ゆっくりと」
「そうする」
長政もこう考えていた、それで言うのだ。
「ゆっくりとな、ではじゃ」
「今は待ちますか」
「うむ、戦になればすぐに終わる」
これが長政の見立てだ、織田と朝倉の力の差を考えてのことだ。
「朝倉家には宗滴殿がおられるがな」
「あの宗滴殿のお力を以てしても」
「それでもですか」
「数は力じゃ」
長政もよくわかっていることだ、かつて一万で二万の六角軍を退けたことがあるだけによくわかっているのだ。
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