第百二十九話 一月その一
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第百二十九話 一月
織田家と朝倉家のいがみ合いがいよいよ危機的なものになろうとしていることは誰が見ても明らかだった、それは浅井家でも同じだった。
長政は小谷城において己の家臣達に告げていた。
「朝倉殿との絆もあるがな」
「朝倉殿についてはなりませんな」
「決して」
家臣達もわかっていた。
「とはいっても織田殿につくのも不義理」
「朝倉殿との絆を壊してしまいますな」
「そうした時は一つしかないわ」
こう家臣達に言うのだ。
「どちらにも戦では与せぬ」
「あえてそうして、ですな」
「下手なことはせぬと」
「その通りじゃ。義兄上が勝つが」
長政は信長の勝ちを確信していた、双方が戦えばだ。
「しかし朝倉殿への義理がある」
「それを汚してはなりませぬ故」
家臣の一人が言う。
「ここは、ですな」
「かといって朝倉家については駄目じゃ」
これは決してというのだ。
「これもまた不義理」
「お市様の兄上である右大臣殿への」
「それになりますな」
「不義理はしてはならぬ」
潔癖な長政らしい言葉だった、言葉の調子は確かなものだった。
「それをしては何にもならぬわ」
「例え戦国の世にしても」
「それはですな」
「左様じゃ、だからじゃ」
それもまた然りというのだ。
「ここは兵を動かさぬ。義兄上もおわかりじゃ」
「今の浅井家の立場はですな」
「そのことは」
「むしろ気を使って下さっておる」
信長のその気遣いはどういったものかというと。
「わし宛に文を送ってくれたわ」
「右大臣殿から直接ですか」
「文を送って来られたのですか」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「朝倉家との戦になった時は済まぬと。当家に迷惑は一切かけぬとな」
「そう仰って頂いていますか」
「そうされていますか」
家臣達もこのことを聞いてまずはほっとした。
「流石右大臣殿、気遣いもして下さいますな」
「当家のことも」
「当家はこの度は動かないでよいとのことじゃ」
織田家に気を使うなというのだ。
「兵糧だのを出すこともないとな」
「全て織田家でやられて、ですか」
「当家に迷惑はかけぬと」
「その通りじゃ、動かぬことも決まっておる」
それは既にだというのだ。
「義兄上も認められておる」
「ではその様にですな」
「当家は」
「この度は義兄上に気を遣って頂いておる」
「では次に、ですな」
「そのお気遣いの礼をしましょうぞ」
「浅井家は天下を望まぬ」
これは祖父の亮政以来のことだ、浅井家の初代の。
「むしろ天下泰平になればそれでよい」
「はい、民さえ笑顔でいるのなら」
「それでよいですな」
家臣達も同じ考えだった、浅井家にとっては野心
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