TURN76 青い石の力その十
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「諦めるしかないかな」
「残念ですが」
「このことは今は」
「では俺だけで楽しもうかな」
ヒムラーは軽く言った。
「美食は」
「はい、それでは」
「バイエルン王の様な美食をのね」
ドイツのかつての上司だ、音楽と美少年を愛した王である。
この王は美食家でもあった、ヒムラーはその王の様にだというのだ。
「今から食べようか」
「そういえばアドルフ総統は」
側近の一人が彼女の話をした。
「あの方は菜食主義者で」
「ああ、そうだったね」
「非常に質素な食事でした」
一国の主とは思えないまでのだ。とかくレーティアの日常生活は極めて質素であり小心なまでに真面目だった。
その彼女のことを今話すのだった。
「ジャガイモにパスタに」
「そういうものばかり口にされていたね」
「はい、そうでした」
「そのことは否定しないよ」
ヒムラーにしても表向きはレーティアへの敬意を見せない訳にはいかない、何しろレーティアこそがこの国を築いた英雄だからだ。
そのレーティアの影を利用して国を治める、それならだった。
「素晴らしい方だった、けれど俺は俺だから」
「美食ですか」
「フォアグラ、それにトリュフだね」
三大珍味のうちの二つだった。
「これをメインにして上等のラムも貰おうか」
「メインディッシュはそれですね」
「勿論野菜もふんだんとね。ジャガイモも欲しいね」
ジャガイモを言うところはやはりドクツ人だった。
「デザートは果物がいいな。あとカロリーは控えめに」
「糖分もですね」
「太るつもりはないよ」
そのホストを思わせる容姿を維持する為だ。
「その為にもね」
「カロリーと糖分は控えられ」
「運動もしないとね。やることは多いね」
「前総統は常に勤務されていました」
レーティアは多忙だった、ドクツの総統として国家の全てを動かしていたのだ。
そして現総統であるヒムラーの前にも書類が次々と来る、彼はその書類の山を見ながら少し笑ってこう言った。
「俺が事務処理能力がなかったらね」
「総統にはとてもですか」
「なれませんか」
「国家元首には事務処理能力も必要だよ」
権力欲だけではない、ヒムラーはこのことも理解していた。
「政策や指導力に加えてね」
「ではサインして頂けますね」
「食事が出来るまでの間は」
「ああ、そうさせてもらうよ」
実際にそうすると答えるヒムラーだった。
「書類は片っ端からね」
「サインしてですね」
「決裁を」
「さて、総統として働こうか」
ヒムラーはサインをはじめながら今も余裕綽々の顔を見せる
「この国の為にも、そして」
「そして?」
「そしてとは」
「いや、何でもないよ」
隠していることは言わなかった。
「気にしないでくれ」
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