第5章 契約
第67話 疫鬼
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く判る形と成って居ますね。
その豪奢な玄関の前には、俺と湖の乙女の到着を待っていた水の精霊ウィンディーネの姿が有った。
あの、境界を開いて疫鬼として利用されていた御霊をあちら側に送った後、モンモランシーに因り告げられた事実。
今朝早く。急に故オルレアン大公夫人。つまり、タバサの母親が病に因り死亡し、それに続いてタバサも同じように、今朝方から病の床へと就いて仕舞ったのでした。
その後、ブレストの街の事は、俺の飛霊二体と、モンモランシー。そして、彼女の従兄どのに任せて、大急ぎで旧オルレアン大公領内に有るタバサの実家へと転移して来たと言う状況なのですが。
「それで、タバサの様子は?」
一般的な日本家屋にしか住んだ事のない俺から見ると、何故、これだけ広い玄関ホールが必要なのか判らない、吹き抜けに成った二階、三階の部分に存在するステンドグラスから差し込んで来る荘厳な光を頭上に浴びて、其処から正面に見える螺旋階段を昇り一気に三階へ。
「彼女に取り憑いて居た疫鬼はすべて祓われ、現在は水の秘薬と、私の治癒魔法に因り、容体は回復して居ります」
一か月前。タバサの母親が急な病にて倒れた事をきっかけに実家の方に戻った彼女は、そのまま自らの母親の看病に就き、
そして、水の秘薬をふんだんに使用し、水の精霊や、タバサの治癒魔法に因り、母親の容体は十日程で完全に回復。
その後、母親の精神を蝕んでいる病の原因を調べる為に、タバサは水の精霊と共に症状を調べ、資料を当たり、色々と試して居たはずなのですが……。
ドアをノックするが内部から答えが返される事もなく、そのままドアを開いて中を覗き込む俺。
その瞬間、軽い眩暈にも似た違和感に襲われた。
和室に換算すると十二畳ほども有るこのタバサの部屋。当然のように、この部屋の隣にはクローゼットルームも存在し、この部屋はタバサ専用の居住空間だけと言う部屋でも有ります。
その部屋の内部の様子は……。
開け放たれたままのバルコニーへと続く窓からは、レースのカーテン越しに秋の物悲しい風を運び入れ、
天蓋付きのベッドに張られた薄い紗のカーテンを揺らす。
室内に僅かに香る甘い香りは魔除けの香。
そして、部屋の四隅に貼られた呪符。この呪符が造り上げた仙術の砦が、先ほど感じた違和感の正体。
つまり、彼女の元に訪れた疫鬼も、彼女と繋がった縁の糸を通じて顕われた存在の可能性が非常に高いと言う事でも有ります。
俺は、ゆっくりと紗のカーテンに覆われたベッドに近付き、その覆いを開く。
其処には、この世界に来てから見続けて来た少女の、紅いフレームのメガネを外したあどけない寝顔が存在しているだけで有った。
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