第5章 契約
第67話 疫鬼
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「だとすると、この一瞬一瞬の間にも患者が増えて行って居る状況は一体……」
俺は、何処か在らぬ方向に視線を向けながら、独り言のようにそう呟いた。
十月、 第二週、ラーグの曜日。
異常事態は今から四日前の虚無の曜日に発生しました。
本来、祝日で有るその日は、軍港で有るブレストの街にも市が立ち、近在の村々から多くの人々が訪れて来て居たのですが……。
そこで、次々と倒れて行く市に参加していた人々。
そして、それが異常な事態の発生で有る事が判ったのは、その一日後の事でした。
そう。それは……。
有る者は、猛烈な下痢と嘔吐。急速に進む脱水症状により、死亡に至る。
また有る者は、全身に黒い痣が浮かび上がり死亡する。
そして、先ほどの少女のように、身体中……内蔵にすら膿疱が発生。その結果、呼吸器損傷による呼吸困難などに因っての死亡に至る者。
最初の例はコレラ。次は黒死病。つまり、ペスト敗血症。ただ、未だ肺ペストの発生は確認されていません。そして、最後の例は疱瘡。……天然痘の症状。
但し、これらの有名で、更に感染力の強い疫病が同時に発生した例を俺は知りません。
まして、普通はそれなりの潜伏期間や軽い症状の時期が存在するはずの病が、発症した瞬間から、末期の重篤な状態。
流石にこの異常な状況を訝しみ、この世界の医者の元に運び込まれた患者を霊視した結果、見えたのは患者に纏わり付く疫鬼の姿。
尚、疫鬼と言うのは、疫病を流行らせる類の悪鬼の事。
例えば、ヨーロッパでペストが流行した際に描かれたペストを表現するがい骨に大きな鎌を抱えた姿の死に神や、疱瘡を流行らせる疱瘡神や疱瘡婆などと呼ばれる存在の事。
確かに、疫病で突然生命を終えた者や、未だ現世に心を残して死亡した者の魂は、その死を受け入れる事が出来ずに、其処に『怨』が発生する事は有るのですが……。
ただ……。
地球世界でもインフルエンザなどの流行は経験した事が有りますが、其処に疫鬼などが介在する呪的な疫病の爆発的な流行など、流石に今までには御目にかかった事は有りません。
確かに、俺が暮らして来た世界の、日本と言う国は衛生面から言っても、医療技術から言っても、世界でもトップの国。その国で簡単に死者が出続けるような疫病が流行る可能性は低いのですが、それでも……。
このブレストの状況は異常。むしろ、何か呪的な作用が起きて居ると考えた方がしっくり来ると思います。
つまり、疫神と言うべき存在が、このハルケギニア世界の何処かで顕現しようとしているのはないかと考えて居る、と言う事。そして、もしその考えが正しいのならば、その元を
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