第3話「仕事―表」
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子一人見当たらない。
いつの間にやら、道には草木が生い茂り、ほとんど獣道と化している。壁の代わりには自身の身長を覆い隠さんばかりの木々が立ち並び、人工物の陰は一切見当たらない。
「……まずいぞ」
また呟かれた言葉には、確かに彼なりの焦燥感が漂っていた。だが惜しむらくは、彼の迷子ぶりだろう。どうやら方向音痴レベルが最上級のようで、未だにこの道が山に入っていることにすら気付いていない。
「……っく、スーツを着てくればこんなことには」
心底悔しそうに言っている。確かにスーツがあれば全力でジャンプして場所を一望できる。人に見られたくなければステルスを作動させればいい。だが、元々運動のためにスーツを着なかったのだ。スーツを着て走ってもそもそも運動にならないし意味もない。
元々頭が良いわけでもないが馬鹿でもない彼が本気でつぶやいているということは今、彼なりにテンパっている証拠なのだろう。
「……初日から遅刻は人としてまずいな」
困ったように走り続けるタケルに、遂に救いの手が差し伸べられることになった。なんとこの獣道に人が。彼よりも身長は高いが、スカートをはいていることから女子生徒だとわかる。タケルの身長は169センチなので、女子として十分に大きいだろう。
ともかく、その女子生徒がタケルを追い抜く形で走り去っていったのだ。
「少し寝すぎたでござるなぁ」
妙に時代錯誤な言葉遣いだが、今は気にしていられない。
「……まった」
タケルが慌てて呼び止めると、その女性徒は立ち止まり振り返った。これで帰れるとホッとしたのも束の間。目の前の人物の顔を見て絶望したい気分になった。
思わず声に出してしまう。
「長瀬 楓……か?」
これはひどい。
折角、帰れるというのに、これから自分の教え子となる人間に「迷子になったから道を教えてください」といえばいいのか。
――で、できない。
俯くタケルに対して、カエデはなぜか急に鞄を捨てて身構えた。
「……拙者に殺し屋?」
――何を意味不明なことをいってるんだ?
と考えているタケルとは裏腹に、カエデはいきなりその姿を消してしまった。消えられてはマズイ、そう思ったタケルは大きな声で彼女を呼びとめようとして、すぐさまその場で体を伏せた。それとほぼ同時に先程まで頭があった位置を何かが通り過ぎた。
殺気。
――こんな平和なそうな世界で? しかも明確に俺に?
まがりなりにもガンツのミッションを3年以上戦い続け、しかも100点クリアを7回も経験しているタケルだ。いつの間にか殺気やら殺意やらには自然と反応してしまうような体になっていた。
とはいえ――
「……まずい」
そ
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