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万華鏡
第三十二話 呉の街その一

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               第三十二話  呉の街
 この日は自由時間だった、それで朝のランニングと入浴、それに朝食を終えると。
 生徒達は一旦ホテルの前に集められた、服は皆それぞれの私服だ。
 その彼等にだ、引率を代表する今いる中で一番年配の白髪の男の先生が言った。
「いいかい、今日は自由時間だけれど」
「はい、悪いことはするな」
「そういうことですよね」
「まず喧嘩や万引きはしない」
 これは絶対だというのだ。
「したら退学もあるよ」
「はい、わかりました」
「それは」
「後は外ではお酒を飲まない」
 このことも念を押すのだった。
「ホテルの中以外の場所ではね」
「お酒駄目ですか?」
「どうしてですか?」
「ここは八条町じゃないからだよ」
 広島だ、だからだというのだ。
「そして八条グループの管轄じゃないんだよ」
「だからですか」
「お酒はですか」
「そう、ホテルの中でならいいんだよ」
 夕食の時に幾らでも飲んでいいというのだ。
「飲みたいならホテルに残ってくれ」
「じゃあ遊びたいならですか」
「飲むなっていうんですね」
「そうだよ」
 その通りだというのだ。
「じゃあいいね」
「わかりました、じゃあ」
「今は」
「そして門限までに戻って来ること」
 このことも念を押す先生だった。
「絶対にね」
「門限四時半ですよね」
「それまでにですね」
「それまでにホテルに帰って晩御飯をここで食べるんだよ」
 これもまた絶対だというのだ。
「わかったね」
「若し門限に遅れたらどうなるんですか?」
 生徒の一人がこの場合のことを尋ねる。
「その場合は」
「神戸まで走って帰ってもらうよ」
 先生はその問いに真顔で返す。
「そうね」
「神戸まで走ってって」
「ここからですか」
「海は泳いでね」
 やはり真顔で言う先生だった。
「そうしてもらうよ」
「鮫だらけの海をですか」
「泳いで、ですか」
「うん、そうだよ」
 まさにそうしてもらってだというのだ。
「死のトライアスロンをしてもらうよ」
「よくわかりました」
「それじゃあ」
「皆門限は守らないとね」
 絶対にだ、そしてそれは何故かというと。
「海軍がそうだったからね」
「ここにいた帝国海軍がですか」
「そうだったんですね」
「海軍は五分前行動」
 最早伝説になっている行動だ、海軍経理将校出身だった某元首相もこのことをずっと守っていることで有名だ。
「時間厳守だったんだよ」
「じゃあ遅刻とかは」
「死ぬ程殴られただろうね」
 これも伝説になっている海軍名物鉄拳制裁だ。
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