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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 前編
視えざる《風》を捉えろ!
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る記憶の全てを巻き戻し、そこから使えそうな情報を抜き出していく。部屋に入る前後の会話、ボスの特徴、挙動、ボスが見えなくなってからの視界、音、感触――。

「待てよ……?」

 サルベージした記憶の断片、その中のさらに一単語が、些細な違和感となって網に引っかかった。ごくごく最近に再び聞いたその違和感は掘り下げるごとに強さを増していき、その先にくくりつけられた細い糸を慎重に手繰り寄せれば寄せるだけ、絡まった事象が紐解かれていく。

(……だが、それだけでは意味が無い。一度奴の位置を特定しない限りは……何か、何かないか……!)

 その時、マサキの頬を風が撫でた。
 今までも度々吹いていた。別段おかしなことではない。
 ……そう、この部屋の状態と、風切り音が存在しないことを除けば。

「…………!」

 瞬間、マサキの脳裏でスパークが弾けた。そこから幾つもの方程式が生み出され、脳内で展開、それぞれに解が割り振られる。その情報を元に見えないはずの敵座標がプロットされ、これ以上ないほどに正確かつ現実的なイメージが作成される。

 ――そしてようやく開かれた二つの瞳には、今まで霧に隠されていた二つと半透明のウインドウとがはっきりと映っていた。

「ハッ、なるほど、こういうことか……!」

 マサキは口元を獰猛に歪めると、ウインドウを左手で操りながら走り出した。正面に見える少年の体力は既に一割を切っている。
 マサキは何もない右手を渾身の力で握り締めると、今にも倒れそうな少年の横に辿り着く寸前、一気に突き出した。水色のライトエフェクトが溢れ出し、右手から濃紺の柄と(つば)が、さらにそこから半透明の、圧縮した空気のような刃が伸びる。出現した刃は見えない壁に突き刺さり、突如出現したHPバーのドットを削り取っていく。

「マ、マサキ……? 何で……」

 ドットが減るに従って、バーの色が変化した。緑から黄へ、黄からオレンジへ、そしてオレンジから赤へと――。

「何を今更。『親友が助かる以上のメリットなんて、あるはずない』んだろう?」
「…………!」

 ニヤリと笑うマサキの横で、遂に表示されたHPが底を付いた。直後、今まで何も見えなかった空間に闇色のシルエットが浮かび上がり、数瞬の間をおいてそれがまるで幻想であったかのように砕け散る。

「『汚ねぇ花火だ』……とでも言えばいいのか?」

 消滅していくポリゴンを背景に、マサキがぼそりと呟いた。突き出されていた刀を鞘にしまうと、その右手は呆気に取られているトウマの前に差し出される。
 差し出された右手の脇、細めの胴体の前に開かれたウインドウには、紫色の文字が誇らしげに並び自己主張を続けていた――。

 ――《You got a《風刀》skill!!》
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