アインクラッド 前編
視えざる《風》を捉えろ!
[6/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
クローズアップされていく。マサキはそれに抵抗し、視線をそらそうと試みるが、まるで金縛りにあったように身体を動かすことができない。そしてそんなマサキを嘲笑うが如くシルエットは回転を続ける。そして視界に入った横顔には、上向きの口角が刻まれていて――。
「マサキ! 何やってんだよ!? 早く転移しろって!!」
耳を塞いだ手を突き破って侵入した声によって、ようやくマサキは現実へと引き戻された。心臓は今にも張り裂けそうな勢いで脈を打ち、浅い呼吸は存在しないはずの空気を求めて喘ぐ。
その視界の中央には、大剣を構えたトウマの背中が映っていた。頭上のHPバーは既に黄色く染まっているが、一向に退く気配を見せることはない。
「さっさと行けって! 俺だってそう長く時間を稼げるわけじゃ……くっ!!」
大声で叫びながら思い切り横に跳ぶ。が、少し掠ったようで、HPが数ドットほど減少する。それでもすぐに立ち上がり、再び剣を構える。
転がり、這いつくばっては立ち上がり、ただ一心にマサキのために己が命を投げ出そうとするその背中は、億兆の言葉よりも雄弁に、マサキの心に訴えかける。
「――んでだよ……」
震える唇から、掠れた声が零れ落ちた。一度漏れ出した感情の濁流は、全てを呑み込みながら制御不能な津波となって胸から、喉から飛び出していく。
「……何で、何でお前はそこまでして、俺を助けようとするんだよ!? こんなことして、お前にメリットなんてあるのかよ!?」
「……何でって、そんなの決まってるだろ」
マサキの叫びを聞いたトウマは、一言呟くと握った大剣ごと両手を下ろした。そしてゆっくりと身体を反転させる。その姿は、霧の中で見た二回のシルエットと完全に一致していて――。
「……俺、言っただろ? 『それでも俺はマサキのこと……たとえこの馬鹿でかい城がひっくり返ったって、親友だと思ってる』って。……親友が助かる以上のメリットなんて、あるはずないだろ?」
そして、柔らかな声と共に遂に視界に移ったその顔に刻まれていたのは、これ以上ないほどに澄み切った、純度百パーセントの笑顔だった。
「…………!」
数瞬の間をおいてようやく我に帰ったマサキは、自分の頬が濡れていることに気付いた。腕で乱暴に拭ってみるが、後から後から溢れてくる透明な雫は止まるところを知らず、頬を伝いながらその温かさで凍てついた身体を融かし、乾いた心を潤わせる。
涙が止まらないことを、止める必要がないことを悟ったマサキは、ぼやけていく視界と晴れていく霧を眺めながら、そっと目を閉じた。涙で冷やされた頭をフル回転させ、今も必死に戦っている大剣使いを助けるための策を練る。
(何か……何かあるはずだ。考えろ、考えろ、考えろ……)
記録されてい
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ