アインクラッド 前編
視えざる《風》を捉えろ!
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思考で捻り出された受け答えは、最悪のものとなった。
「……親友? 親友だって? 俺が? お前の?」
「…………!!」
次の瞬間、それまで胸倉を握り締めていた両手が急に胸元を離れた。だらりと垂れた右手から力が抜け、握られていた転移結晶が滑り落ちる。
青い結晶が石畳の上に転がって奏でる乾いた音と同時に、トウマはその身を翻した。乱暴な仕草で目元を拭うと、背中に吊られた無骨な両手剣を抜き放つ。
「……それでも。それでも俺はマサキのこと……たとえこの馬鹿でかい城がひっくり返ったって、親友だと思ってるから」
「お、おい……」
「……さあ、出て来いよ! 俺が相手になってやる!」
トウマはそれだけ言い残すと、部屋の中央へ向かって駆け出した。上ずった声を張り上げて、大剣を正中線に構える。
すると、その言葉に反応したように、トウマを不可視の攻撃が襲った。攻撃に関しての一切は目に映らないが、どうやって攻撃を予測しているのかその度にトウマは横っ飛びで、這いつくばって攻撃をかわす。
――何故だ? 何故彼はここまでして、赤の他人を助けようとする?
既にショートして真っ白になった思考回路で、マサキは飛び交う疑問符を追いかけた。
そもそも人と人との繋がりなんて物は“お互いの存在が自分にとって有益である”というあまりにも脆い前提条件の上に成り立っていて、その前提条件が崩壊したとき、人は何の躊躇いもなくそれを断ち切る。どれだけ無邪気な笑顔を見せようと、すぐにその笑みを嗤笑に変える。……今までに出会った奴等は、例外なくそうだった。仕事を請け負った会社のビジネスマンも、美辞麗句を並べ立てる校長や教育委員会の役員も、それまでは何処に行くにもつるんでいたクラスメートでさえ――。
「…………!」
深い記憶に埋もれ去った冷酷な表情を思い出し、マサキの体は一瞬にして凍りついた。蔑みの視線と嘲りの嗤い声が粘ついた霧のように纏わり付き、光を、音を奪う。どんなに強く目を閉じ、耳を塞いでもそれらが消えることはなく、逆に嗤い声は増し、視線は更に冷たくなっていく。
――どんなに一時親密になろうと、結局いつかはどちらかが裏切りどんなに相手が自分の心を占めようと、いつかは消えていく。最後に残るのは、空空漠漠とした無意味な空間だけ。
そんな今更なメッセージが焦ったように飛び交い、凍った心身をさらに冷却させようとする。
「……キ」
ふと、冷笑で埋め尽くされた視界の中に、一つのシルエットが浮かび上がった。背中に無骨な大剣を吊り、革製のコートを着込んだそのシルエットは、やがてゆっくりと回転を始める。
「……サキ」
回転するにつれ、視界がシルエットの顔に
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