アインクラッド 前編
視えざる《風》を捉えろ!
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転移結晶をマサキに差し出した。流石のマサキもこの行動は予測できず、その右手を見て目を丸くする。
「……一体何のつもりだ?」
「……コレはマサキが使ってくれ。俺がここに残る」
「何だって?」
下を向いたトウマの唇から飛び出した、あまりにも予想外なその言葉に、マサキは思わず聞き返した。
マサキの耳が正しければ、今トウマは自分がここに残ると宣言したのだ。そして筋力優位型のビルドである彼にとって、それは即ちゲームオーバーと同義になる。足の遅いビルドではそうでないものと比べてボスの攻撃に晒される時間が長く、それだけダメージも多く喰らってしまうからだ。
「……お前、自分が今何を言っているのか、分かってるのか?」
「ああ、分かってる」
トウマは短く答えると、右手をさらにマサキに向けて差し出した。見ると、その手は震え、それを鎮めるためかギュッと手の中の結晶を握り締めている。
「……分からないな。どうしてそこまで、俺に肩入れする? 別に俺がどうなろうと、お前の知ったことではないだろう」
「……それ、本気で言ってんのか……?」
それまで迷うように震えていたトウマの右手が、一瞬だけピクリと大きく反応したのを最後に微動だにしなくなった。わけが分からないマサキは、柄にもなく困惑した様子を見せながら遮られた言葉の後半を口に出していく。
「ああ。確かにパーティーメンバーの欠員という損害は出るが、別に新しく組みなおすなりギルドに入るなりのやりようはいくらでもある。最悪ソロという選択肢だって……」
「ふざ……けんな……!!」
ドン、という鈍い衝撃と共に、マサキの背中が壁へと打ちつけられた。同時に首元を圧迫される息苦しさが胸の奥からせりあがる。
マサキが胸元に視線を投げると、トウマの両手が胸倉を掴んでいた。現実であれば爪が掌の皮膚を引き裂いているのではないかと思わせるほどの握力で作られた握り拳は、なお余りある力と感情の渦を制御することが出来ず、小刻みに震える。喉の奥からは喘ぐような息が漏れ、胸倉を掴む両手に雫が断続的に滴り、流れ落ちていく。
「何で……何でそんなこと言うんだよ……! やっと……やっとこの世界でできた親友なのに……そんなに簡単に見捨てられるわけ、ないだろ……!!」
今まで俯いていた顔面がその言葉と共にマサキの目前に突き出され、ようやく隠れていた表情が露になった。――両目を真っ赤に泣き腫らし、唇は腕と同じように震え、頬全体が溢れ出した感情にグシャグシャに蹂躙された、その表情が。
「…………」
抑えきれない感情に打ち震えるトウマを前にして、マサキは咄嗟に言葉を返すことができなかった。頭の中を幾つもの疑問符が駆け巡り、思考を覆う。
そして鈍った
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