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〜妖精郷と魔法の歌劇〜
密やかな会合
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ないでしょうね。何せあいつにとっての平和は、少女を助けることですから」
肩をすくめて放たれた言葉に、初めてヴォルティスがクックと笑った。
「確かに、な。それついては我も同意する」
「………《彼ら》は、あいつに勝てると思いますか?」
「無理だろうな。あやつはもう、なかば人の域を超えている。良くて敗走、悪ければ全滅だろう」
「《人でないモノ》には《人でないモノ》、ですか」
「合理的だとは思わないか、卿よ。目には目を、だ」
そこで男は、もう一度カップを持ち上げて香りを楽しむかのように鼻に持っていった。
「歯には歯を…………なるほど。こちらはいつ発たれるので?」
すぐにだ、とヴォルティスは即答した。
黒衣の男は少しだけ眼を見開いた。
「お早いですね。てっきり明日くらいかと思っていましたよ」
「フン、それこそ卿の思い通りであろう」
「さぁ、どうでしょう。…………卿、あなたは《運命》というものを信じていますか?」
「《
運命
(
ディスティニー
)
》、か。愚かな。《運命》など、己の手で切り開いていくものだろうに」
「そうですね。そう考えている人が多いと思います。しかし《運命》というのは、言わば図書館のようなものなのですよ」
ヴォルティスは凛々しい眉をひそめた。
「図書館だと?」
「ええ、これから入荷する本も、ずっと昔からある本も、その冊数も、全て決まっている。そんなシステムとでも言うべきものなんですよ」
「………つまり、卿はこう言いたいのか?《運命》は最初から決まっている、と?」
ヴォルティスの問いに、男はイエス、と言った。
なぜ英語、とヴォルティスは思ったが言わなかった。
「そしてその図書館の中身を見ることができたら、これから起こることも、そしてこれまでにあったこともわかるとは思いませんか?例えば、ビッグバンやペルム紀末に起きた大量絶滅、果ては生物の深遠に迫ることも可能なのです」
俄かに興奮し出した男の言葉を、ヴォルティスは頭の中で反芻させていた。
そう、こんなことを昔どこかで聞いたことがあるような気がしたのだ。
そうして、思い出す。
「《アカシック・レコード》か!しかしあれは単なるまやかしではないのか!?」
「ほぉ、知っていましたか。いえ、《アカシック・レコード》は実際にありますよ。しかし、信じる信じないは勝手ですがね」
「………それを使って何をしようとしている」
「使うなんてとんでもない。卿、さっきあなたが言った通り、俺も《運命》ってやつを切り開いてみたくなっただけですよ」
すらすらと淀みなく答える黒衣の男を、ヴォルティスはじっと見つめる。しかし、いくら見つめてもその真意は欠片も見えない。
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