審判者
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冷たいはずの夜気を…暑く感じた。
血管を流れる血と連続する心臓の鼓動がうるさいくらいに耳に届く。
心は恐怖で金縛りになり、体は動かない。
地面を背に見上げる視界には…絶望しかなかった。
前世の街の中では絶対に見る事の出来ない満点の夜空を人型に切り取る死神が一人…すでに鎌…青白い鬼火を灯した指先を掲げ、今にも振り下ろして俺の命を刈り取ろうとしている。
俺が見上げ、奴が見下ろしている立ち位置では奴の顔は影に隠れてしまう。
なのに…何故その眼だけははっきり見えるのだろう?
その眼に映る…恐怖に歪んでガタガタ震えている自分の姿が、見せつけるようにはっきりと見える。
そしてそれだけだ。
他には何もない。
これから俺を殺そうとする事に対して興奮も冷笑も歓喜も嘲りも悲しみも哀悼も何もかも…何故こんな事になったのだろうか?
俺はただ幸せになりたいだけだったはずだ。
不幸にならないように権力を得て、金を稼ぎ、誰よりも幸せになる事だけを望んで努力してきた事はこんな終焉をつきつけられるほど悪い事だっただろうか?
一度目の人生は後悔ばかりだった…二度目の人生では悔いなく生きたいと…そのためならなりふり構わないと…そう思う事は罪だったのか?
答えは出ない。
答えが出る前に、奴はその指先を俺に向けて…きっと溜息を吐きながら命を奪うのだろう。
そして…俺の世界は暗転した。
―――――――――――――――――――
「うぁぁぁぁぁぁ!!」
感情をそのまま吐き出せば絶叫になった。
中は死後転生型のオリ主だ。
一度死を経験している…のだが、死ぬという事に慣れなど起こりようがないし、何より秋晴のそれは一度目の時とは比べ物にならないほどに濃密な死の気配を纏っていた。
全ての攻撃が効かず、体を破壊された中は生贄の羊の心境と立場を味わったのだ。
恐怖するなと言う方に無理があるし、どれだけ取り乱しても仕方がない。
「俺…生きているのか?」
耳の奥でうるさいほどに響く心臓の鼓動と血管を流れる血液の音は間違いなく人生最速を更新している。
貪欲に呼吸を求める肺が痛みを訴え、自己主張していた。
その痛みも苦しさも、生きているからこそ感じられる不快だ。
間違いなく持古中は生命活動を続けている。
死んではいない。
その事実を理解すれば、次に湧いてくるのは純粋な疑問だ。
つまり、なんで自分は生きているのかと言う事だ。
夜の森の中で、誰に看取られる事もなく、ウインド・ド・ラ・ウィンドウズ…持古中は二度目の生を終える…はずだったのに…。
「ここは…」
「あ、お兄ちゃんが起きた〜♪」
「っ!?」
能天気な声だったが、ただでさえ色々とギリギリな上での完全な不意打ち
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