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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission9 アリアドネ
(7) マクスバード/エレン港 C
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このままじゃアナタはまた、かーさまを見つけて、ワタシを産んで、ワタシのとーさまになる。運命は、空転する」

 ユリウスは彼らしくもなく隠さず舌打ちして立ち上がり、ユティを見下ろした。

「ユースティア。いい加減にハッキリさせろ。これからルドガーに何が起きる? 誰かに殺されるのか? それとも精霊に囚われでもするのか? どんな運命であろうが俺が変えてやる。だから早く、本当は何が起きたかを……」

 皆まで言えなかった。

「『鍵』を持つ人間どもがこぞって謀を巡らせているかと思えば」

 天からユリウスたちを睥睨する、モノクロの時の番人。

「クロノス!?」
「まさか遭遇するとはな、探索者――『道標』が集まるはずだ。わざわざ分史世界の『鍵』を使っていたか」

 ユリウスはとっさにユティを背に庇い、愛刀を抜いて構えた。

「無理しないで。とーさま、ユティも戦える」

 後ろから上がるソプラノ。ユリウスはふり返る。ユティはショートスピアを出し、隙あらばクロノスに飛びかからんとしている。
 その時、心の裏側からユリウスに黒く囁いてくるものがあった。

(ユースティアの力ならクロノスにまともなダメージを与えられる。今日まで逃げ回るだけだったクロノスに勝てるかもしれない。クロノスに拮抗するだけの力を使わせれば、因子化は加速する。でもこの子はそれさえ善しとする。父親(おれ)が命じさえすれば、自分が傷ついてもこの子は実行する)

 囁きが自身の考えとほぼ一致しかけて、不意に、胸に浮かんで来る過去があった。母コーネリアがクロノスとの戦いで因子化して死んだと知った時の憤り、苦さ。
 母を死なせた父を憎んだ。一族の宿命を恨んだ。それを課した精霊を呪った。
 今は雑念だ、考えるな、と己に言い聞かせる。これは感傷ではない。母と可能性の娘を重ねてなどいない。

「! ユリウス!」

 足元に暗色の術式陣が広がった。しくじった。クロノスの攻撃は予備動作がない。常であればクロノスから目を逸らさず観察して避けるのに。
 上空四方から迫るグラビティメテオ。スローモーションに視えるのにユリウスには避けるだけの体力がない。これまでか――

「マキシマムトリガー!!」

 弾幕がグラビティメテオを撃ち落とした。想定外の援軍。ユリウスは瞠目して彼を呼んだ。

「アルフレド!?」

 「次元刀」回収任務から会わなかった弟分。アルフレド・ヴィント・スヴェント。
 彼は銃口と、弾丸の如き苛烈なまなざしをクロノスへ向けた。
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