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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission9 アリアドネ
(7) マクスバード/エレン港 C
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 マクスバードのとある隅っこの柱の陰。今し方まで各国のVIPが集まってくり広げていた、長い長い未来の話を盗み聞き終えて、甚大なショックを被っている男が一人いた。

 私的雇用者の無茶ぶりメールのせいで、警備兵を掻い潜ってマクスバード/エレン港に侵入させられた、ユリウス・ウィル・クルスニクである。

 しゃがみ込んで地味に凹んでいると、ぬっと石畳に影が差した。
 ユリウスは脱力もそのままに影の主を見上げた。

「聞いた通りよ。ハジメマシテ、若い頃のとーさま。アナタの未来の娘デス」
「……今すぐサマンガン樹界に旅立ちたい気分だよ俺は」

 ヤケクソ半分、本心半分。ユリウスは頭を抱えた。

 ユリウスの銀時計を持っていた――正史世界に持ち込んだ時点で分史世界の人間、しかもユリウスに近しい人間だろうと予想はしていた。最悪、ユリウスも知らない3人目のきょうだいと言われる覚悟もしていた。
 だが、よりによって、娘。他でもないユリウスの。軽く死にたくなっても許してほしい。

 当の娘は、正体を明かせてよほど嬉しいのか、ユリウスの傍らにちょこんとしゃがんで笑った。

「……未来を変えるために未来の俺が、お前をどこかの女に産ませたのは、百歩譲っていいとしよう。ただ、どうしても腑に落ちないことがある」
「なあに?」
「俺は世界を救うためなんて殊勝な理由で子供まで作ったりしない」

 そう、ユリウス最大の疑問は、動機だった。
 ユティの父親はユティを生まれる前から正史に投入すると決めていた。ユティの命が発生する前、おそらく彼女の分史での「審判」で何かがあったのだ。ユティの父親が心血を注ぎ込み、幼なじみを巻き込み、一人の女の人生を奪うほどの一大プロジェクトを決意するだけの、何かが。

 その「何か」は、ユリウスにとってはルドガー以外にありえない。

 ユリウスは弟のため以外にそこまでしない。ルドガーに不利な世界でなければ、どれだけの汚染だろうが不自由だろうが無視できる。「ユリウス」ならば。

「ユースティア。お前が変えたい未来は、本当に瘴気に汚染された環境か? お前が変えたい、いや、変えろと父親に言われたのは、ルドガーに関することじゃないのか?」

 ユティはじわじわと項垂れていく。前髪に目元が隠れて表情が分からなくなる。

「………………、とーさま」
「俺は君の父親じゃない。君の父親は、君のいた分史の父親一人きりだ」
「でも、アナタはワタシのとーさまだもん」
「違う。元になった人間が同じだけで、同じ道を行かなければそれはもう別人だ」
「……ちがわない」 
「え?」

 ユティが顔を上げた。蒼いまなざしは、父親とユリウスに対して等分に向けられている。

「元が同じで、同じ道を行くなら、それは同一人物。
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