第72話
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制理の表情は、その時だけ人並みに角が取れていた。
相変わらずズルズルと引きずられる麻生はため息を吐いて言う。
「まぁ、俺には関係のない事だが。
それより、襟首を掴むのを止めろ。」
「それでは、手。」
「・・・・・・」
本当は離したら逃げようと考えていたが、それも無理のようだ。
手にはハンドクリームを塗られた柔らかい掌だ。
どうせまた通販番組で買った流行りの健康グッズだろう。
麻生はもう一度ため息を吐くと、制理の差し出された手を掴む。
制理はちらりとこちらを向いて言った。
「歩くの遅い。」
「・・・・・」
やっぱり逃げればよかったと麻生は後悔した。
制理に連れられる形で麻生は街を歩いていた。
「ねぇ麻生。
大覇星祭ってつまんない?」
唐突に手を繋いでいる制理が言ってきた。
その言葉に麻生は何も答えない。
「どうも貴様はやる気がないというか、あの棒倒しは例外だけど、貴様は授業中でもどんな時でも退屈というかそんな表情をしている。」
その言葉に麻生は少しだけ驚く。
まさか制理が自分を観察されているとは思ってもいなかったのだ。
「ま、絶対に大覇星祭に集中しなくちゃ駄目なんて強制はできないし、楽しめ、って命令も出来ない。
退屈ならリタイヤしても止められないんだけどさ。
でも、やっぱり企画を立てて今日まで頑張ってきた身としては、わがままでも皆に参加して、楽しい思い出を共有してもらいたいと思ってしまうのね。
それで皆が笑えれば言う事はないけど・・・・。
麻生が今日つまんないと感じたのなら、やっぱり準備を進めてきたあたしが何か不足していたという訳だから、何ともね。」
それを聞いて麻生は三度目のため息を吐いた。
正直、麻生はこの世界で楽しく生きていく事が出来ない。
なぜなら星の真理を知り、人間の闇を知った。
今も制理達が頑張って考えた大覇星祭も、上層部が何かしら自分達の利益に変える為に動いたりしているだろう。
他にも屑な人間はいくらでもいる。
そんな世界で、そんな人間が多い世界をどうやって楽しく生きていけばいいのか麻生は逆に教えてほしいくらいだ。
けど、そんな事を制理に言える訳がない。
愛穂は言った、この世界はまだ楽しい事などがたくさんある事を。
桔梗は言った、この世界の人間の全部が全部醜い人間ではない事を。
そして、あの時、あの幼い少女は笑顔で言った。
生きていて楽しい、と。
その少女が今、目の前にいる。
せめて彼女には彼女達だけは楽しくこの世界を生きていてほしい。
麻生は四度目のため息を吐いた。
だが、その後に小さな笑みを浮かべた。
麻生は制理と繋いでいる手を振りほどくと、両手で制理の頭を優しく掴むと自分の額と額をくっつける。
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