第九話 〜元凶〜
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ない。
もう洋班の顔も見たくない。
明日は腰抜けだの弱虫だの言われるだろうが、それでも洋班に会わなければそれでいい。
そして選んだのはこの南門だ。
こちら側は北門に比べて若干ではあるが、内陸側に位置する北門よりも高い宿屋は無く、どちらかと言うと蕃族と頻繁に交易している流れ商人が一時的に借りるような宿しかない。
…それに。
コンコンッ
(帯坊、飯は戸の前に置いて置くからな!腹減ったら食いな!)
そうなのだ。
ここの宿は昔からの付き合いで僕が父さんとケンカをした時や、父さんと凱雲が偶然出掛ける事になった時に良く来ていた場所なのだ。
そのせいもあってここの主人は僕が来ると何時も何も聞かずに宿に泊めてくれる。
そして今みたいにご飯も用意してくれる。
…あとでしっかりお礼言わなきゃな。
僕は枕に顔を沈ませながらそんな事を思った。
そして、少し宿主の好意に胸が暖かくなるが、直ぐに昼の事を思い出しその温もりは冷めた。
…今日死んだ人達の中にはこんなやり取りをしていた人達もいたんだろうな。
僕は自分と宿主との間に起きた些細なやり取りをあの村と重ねた。
穏やかな日常。
みんなが気を使い合いながらも気さくに、そして時には小さなケンカをしたりしながら流れていた日常。
その中で昼に宿に泊まりながら宿主とたわいも無い会話をしている二人。
…だが、そこに急に剣を持った兵士達が押し寄せて来て訳もわからずに斬り付けられてそして…。
ギュッ
より一層強く枕に顔を押し付けた。
僕はどうして止められなかったんだ。
あの場では反対意見を言えたのは兵士達より位の高い僕か黄盛しかいなかった。
だからこそ兵士達の、そして僕の意見をしっかり諦めずに主張し続けるべきだったんじゃないか?
…それが死ぬ事になっても。
でも僕は途中で諦めて黙認した。
最善を尽くしたか?
いや、最善なんて尽くしちゃいない。
それこそ死ぬ気で喰いついていればなんとかなったかもしれない。
それなのに僕は…。
もう涙も出ない。
何度も何度も同じ言葉を繰り返している内にいつの間にか涙は乾いていた。
そのせいか、異常に喉が乾いていた。
だが、自分の喉を潤す為に水を飲むのに抵抗を感じていた。
涙が出なくなった今、死んだ人達への謝罪の仕方がわからない。
泣く事で許されるとは思っていないが、それでも罪悪感を誰に示すでもなく感じているというのを示せなくなった今はこの乾きこそが泣く事に変わる死んだ人達への謝罪の仕方のような気がしていた。
死んだ人達はこの乾きすら感じる事はできない。
水を飲んだ時の生きている実感や
清々しさなんてもっての他だ。
そんなものを僕が感じる資格なんて無い
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