崑崙の章
第3話 「治療できないからです! 少し黙って!」
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……入っても大丈夫です?」
「ああ、黄忠様ですね……どうぞ」
その声に扉を開けると……
寝台の上に細い布で作られた包帯で、ぐるぐる巻きにされた桔梗の姿があった。
「桔梗……?」
顔色は若干青いものの、呼吸もしっかりしており、時折痛みにうなされているようだ。
よかった……生きてる。
「このお客さんの話じゃ、傷に比べて思ったより出血が少なかったので、助かったのではないかと……」
そう言う宿の主人が視線を向ける先には、北郷さんが壁に背を預けて眠っていた。
「北郷さん……」
「大した方ですね……先程まで起きていたのですが、家内に甘酒作る様に指示して、市場が開くまで寝るとおっしゃってからすぐに寝ちまいました。相当疲れたんでしょうな」
「……そう、ですか」
見ず知らずのわたくしの友人のために、そこまで……
にもかかわらず、不覚にも眠ってしまった己を恥じた。
「ん……む……わしは……」
「桔梗!?」
目覚めた桔梗に、わたくしが縋りつく。
「ああ……よかった」
「紫苑……お主か。うっぐ……」
「……まだ痛む?」
「……かなりの。あの小僧め……治療する前より痛むではないか」
桔梗がニヤリとしながらも顔をしかめる。
「えっと……すいません」
宿の主人が、申し訳なさそうに声を掛けてくる。
「その小僧……お客さんから伝言です。貴方がもし起きたら、少しだけ甘酒を飲ませろと」
「甘酒じゃと……そんなものより酒を」
「あ、お酒は絶対に飲ませるな、だそうです」
「な、なん、じゃと……」
さすが桔梗。
こんなときでもお酒を飲みたがるなんて……
「本当は麹から作る甘酒の方がいいんですけど……うちには酒粕しかないので、砂糖を少しだけ入れたものが作ってあります。すぐにお持ちしますね」
そういって宿の主人は、部屋を出て行った。
「むう……い、痛みが酷いのに好きなものを飲ませんとは。儂の体が動けるならば、轟天砲で穴だらけにしてやるものを……」
「桔梗……助けてもらった恩人に、そんなこと言ってはダメよ」
「し、しかしの、紫苑。わしはあんな治療など見たことも聞いたこともないんじゃぞ?」
「破傷風については、わたくしも知っているわ。全身痙攣して……最後は死んでしまう」
「な、なんじゃと……」
そう……彼が言った言葉。
『破傷風になりたいんですか!?』 この言葉がなかったら、わたくしも北郷さんに全てを任せるようなことはしなかった。
破傷風。それこそが原因で死んだ……あの人の死因なのだから。
「お待たせしました」
宿の主人が甘酒を持って戻ってくる。
熱々なのかと思ったら、かなり冷ましてあるようだ。
「熱す
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