崑崙の章
第2話 「石を掘りにいくんですよ」
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?」
宿の店主が奥に入った後、北郷さんが振り向いて驚く。
それもそのはず。
わたくしは北郷さんを、睨みつけている。
「えっと……どうしました?」
「璃々、降りなさい」
「おかーさん……はーい」
璃々がもそもそと降りようとして、北郷さんが下へ降ろす。
さて……
「北郷さん、お気持ちはとても嬉しく思います。ですが、ご好意は受け取れません」
「は……?」
「わたくしも璃々も、物乞いではありません。これでも元は武人だったのです。会ったばかりの貴方に、そんな施しを受ける理由がありません」
そう言って北郷さんを睨む。
少し殺気も含めて。
北郷さんの立ち居振る舞いから、彼も武の嗜みがあることはわかる。
だからこそ、理由のない施しなど……武人の矜持に関わる。
「あ……ああ、これは失礼しました。そんなつもりではなかったのですが……」
「……失礼します。璃々、行きますよ」
言い訳しようとする彼に構わず、璃々の手を引いて部屋へと向かう。
「あ……」
「御代については明日、宿の主人から返金してもらってください。では」
そのまま振り返らず、昨日も泊まった部屋の扉を開け……中に入って閉める。
そして扉の前で立ったまま、しばらく扉に背を預けて息を潜めた。
「おかあさん?」
「しっ。少し静かにしてね」
璃々にそう言って、外の音に耳を傾ける。
しばらく無言だったが……ぽりぽりと頭を掻く様な音。
「……そんなつもりじゃなかったんだが、なあ。礼を失したか」
そんな呟きのあと、トボトボと歩く音が聞こえて……扉が開いてしまる音。
割り当てられた部屋に入ったのだろう。
「ふう……」
安堵した溜息を吐く。
ふと下を見ると、璃々が頬を膨らませていた。
「あ、あら? 璃々?」
「おかーさん、なんでお兄ちゃんにいじわるするの?」
璃々の言葉に苦笑する。
そう……璃々には、北郷さんに意地悪した様に見えたのね。
「違うのよ、璃々……これはね、お兄ちゃんのためなの」
「お兄ちゃんのためー?」
「そう……璃々にはいつも言っているでしょ? 知らない人から理由なく物をもらったり、ついていっちゃダメだって」
「うん。でも、お兄ちゃんそういう人じゃないよ? 絶対、いい人だよ?」
「そうね……とてもいい人だと思うわ。でも……いい人過ぎるのよ」
璃々にはそう言って、微笑む。
そう……いい人過ぎる。
まるで、まるで……
「いい人過ぎちゃ、ダメなの?」
「ダメなの。いい人過ぎるとね……早く死んじゃうから」
「しんじゃう?」
そう。
早く……死んじゃうから。
あの人の……ように。
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