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王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の3:二つの戦い
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したのですか?」
「はっ・・・今の私に出来る事は全て。しかし食糧事情の改善に手を打つ事適わず、兵達の忠心を繋ぐ事が出来ませんでした」
「噂は聞いております。何でも兵達の給金がいきなり多くなったとか、またこのような事を尋ねるのも仕方ないのかもしれませんが、人気のない所で大金を積まれたとも」
「・・・御存知でしたか。・・・その噂は真実です。兵達の心を繋ぐために、金銭を多く手渡しておりました」
「イル。人は心の満足よりも先に、まず飢えを克服しなければ立ち行かないのです。あなたは何よりも先に、よりたくさんの食料を生産すべく手を打たなければならなかった。・・・口を出さなかった私にも責任はありますが、しかしイル、あなたの罪は無視する事が出来ない」

 頷くより他の無い正論が耳を痛める。イル個人としてはやむにやまれぬ事情が多々あったと説明したい所であった。有力な協力者に賄賂と働いていたせいで資金繰りに苦しんでいた所を救われたが、逆にそれを弱みとされて思うように動けなかった。自分は最初からエルフの将来を立ち行かせるために努力していた。決してこの状況を呼び込むのを望んでいた訳ではない・・・そのような事を言いたかったのである。
 しかし年若くして巫女になったこの少女の聡明さは老人の苦しい思いを理解しつつ、しかし同時に言い訳がましいものと見做して憐憫の瞳を向けて来るに違いなかった。簡単に予期できる未来予想に腹立たしい感じがするが、しかしエルフの精神の拠り所たる巫女に怒鳴り立てる訳にもいかない。責任の放棄のようにも聞こえる行為をイル=フードは理性をもって回避する。幾許かの私情は斬捨てるものであった。
 入口の隙間から小さく風が入って蝋燭の火がゆらりと揺れ、闇の中に小さな影が浮かび、そしてすぐに闇と同化した。巫女の声は静かに告げる。

「あなたは優先順位を間違えた。しかしそれは過去の話です。今は違いますね?」
「・・・勿論であります。この耄碌、己の務めを果たさせていただきます」
「そうですか。私は非力の身であるゆえ待つ事しか出来ませんが、ですがここで精一杯に、あなたの無事とエルフの勝利を祈願致します。行きなさい、イル」
「はっ」

 イルは立ち上がって踵を返し、家屋を出る。僅かの間真っ暗な場にいただけなのに、やけに外が明るく感じて目が細くなってしまう。目の前に兵士が現れて恭しく言う。

「イル=フード様。馬の御用意が整いました」「・・・分かった」

 兵士の背を追ってイル=フードは己の馬の下へと向かう。一方で森の入口付近では裸にも近き木々の影を被りながら慌ただしい様子で兵等が軍備を整えており、その影では、兵等を統括する数少なき隊長格の男らが不安げに小声を交し合っていた。

「皆浮き足立っている。あんな数を見せられては当然だ。まともに戦えるとは
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