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王道を走れば:幻想にて
第四章、その8の3:二つの戦い
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、本能の報せを伝えてくる。『拙い』と。
 熊美は自分でも理解出来ぬ速さで馬より降りる。その直後、龍が一歩前に進み、その首が光のように伸びて馬の体躯に食らい付いた。地面に伏せる熊美の真上で、まるで玩具を壊すかのように龍の顎は馬を噛み砕く。絶叫を上げる暇もなく軍馬は絶命し、臀部や足がぶらりと落下してきた。

「っ!!おのれェッ!!」

 熊美はハルバードを突き上げる。矛先は真っ直ぐに龍の顎の真下に生える、小さな鱗に当たった。罅割れるような音がして、龍は堪らないといわんばかりに首を振り上げ足を後退させた。再び睨んでくるその瞳には怒りと殺意以外の感情は何も無い。巨体を大きく広げて龍は吼えた。

『ーーーーーーーッッッッ!!!!』

 鉄を擦り合わせるような猛々しい蛮声。兵士等が思わず身を竦ませた。龍は大きく翼を羽ばたかせて空へと舞い上がる。皆は此処に至って漸く自分を取り戻したようであった。慌てふためきながら隊長の指示に従って陣形を敷いていく。この大翼の蜥蜴と一戦交えようとしているのだ。
 龍は青い空を飛んで旋回した後、此方へ真っ直ぐに飛んできた。それを見ながらバッカスが指示する。
 
「全員斉射用意!!奴の翼を狙え!」
「斉射用意!」「弓を引けぇっ!!」

 弓兵らが一斉に矢を放つ。腹部などに矢が刺さるもまるで意に介していない。龍は雑多な矢を弾きながら足を繰り出す。まるで波濤のような轟音が鳴り響き、地面が泥のように抉れて飛沫を飛ばす。飛翔の勢いを借りながらその足は兵団の只中を突っ切り、幾人ものも男達を潰し悲鳴を上げさせながら再び空へ舞い上がった。
 凄まじい一撃であった。陣形が一瞬にして崩れ去り、後に残ったのは誰が誰だか分からぬ死体と負傷した兵士だけであったのだ。隊長らが上擦った声で指示する。

「散開しろ!!固まって行動するなぁッ!!」「くそっ!翼があるからっていい気になるなよ!?」

 声を他所に第二撃が降り注いだ。先程よりからは犠牲者が少ないが、しかし初回と同じように隊列が引き裂かれた。熊美の下に近衛騎士団団長のオルヴァが駆け付けた。

「どうするクマミ!?これでは一方的に嬲られるだけだ!!」
「帝国の士官は!?」「殺された!さっき奴の爪に引っ掛かって、バラバラになってしまった!」
「ならば指揮権は我等に戻るな!・・・オルヴァ、俺が奴とやる!馬を一頭貸してくれ!それから、なるべく配置につくまで奴の注意を引き付けてくれ!」
「御安い御用だ!!」

 オルヴァは馬を返して隊列の後方へと駆け付ける。龍の攻撃を受けながらも必死に指示を出すハボックは、傍に駆け寄る近衛騎士を見て一瞬安堵を顔に浮かばせた。オルヴァは叫ぶように言う。

「ハボック!!奴の注意を惹くぞ!一斉斉射の後、左右に散開!後はクマミがやる!!」「
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