第八十六話
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で遠ざかると、いつの間にかチャンピオンも男の彼に戻っていた。
「いったいあなたの中には何人居るのかしら?」
「さてね。この聖杯戦争中に全てが出てくる事は無いよ」
「そっか」
質問をはぐらかされてしまったが、特に知りたいわけでもない。もやもやした気持ちに整理がつかないから何となく話題に出しただけだ。
基本的にチャンピオンはわたしに干渉してこない。サーヴァントだからって事もあるんだろうけど。きっとこれはこの彼の性格なんだと思う。
「今日はもう城に帰るのか?」
「ええ、空の散歩でもしながら帰りたいわ。チャンピオン、お願いね」
「了解」
と言った彼はわたしを抱き寄せると、背中に光る妖精の翅を出し夜空へと舞い上がる。
夜の空を切裂きながら夜景を眺めているうちに先ほどのもやもやはなりを潜めた。
…
…
…
夢を見ている。
また別の彼の夢だ。
見える街並みは近代的で、なんと言うか、まだなじみの無いこの冬木市が一番近い感じだろうか。
今度の彼はなんて言うか、その現実に戸惑いつつも何処か嬉しそうだ。
彼は一人、魔術の練習をしている。
ようやく手に入れたことに本当に喜んで、でもやはりどこか何かに怯えている。
彼が怯えているのは何だろう。
いつも彼は未来に恐れを抱いている。
未来が怖いなんて事は人間なら誰しも持ちえる感情なのだけど、彼のそれはそれらとは少し違うような気がする。
時間が進む、幼少時代が過ぎ、二次成長が始まるかと言う頃、彼の周りでショックな事が起こったようだ。
現れたのは一人の少女。
その彼女の持っている杖がこの間見た最初の女性のチャンピオンが持っていたそれに類似している。
ああ、これはきっと彼女だろう。
彼女に彼は自分の技術を教えている。しかし、彼はすこし複雑なようだった。
場面が移り変わる。
淡々と過ぎていく日常の中で、彼は特に焦っていた。
その理由は分からないが、とても心配している事が有るらしい。
ある日、彼の家に記憶をなくした少女が運び込まれてきた。金髪に赤い瞳の彼女の存在に彼は酷く動揺したようだ。
取り返しのつかない何かを目の前にどうして良いか分からないと言った感じだ。
また場面が移動する。
ビデオの早回しを見ているように、意味を捉える前に場面は移り変わっていく。
良くは分からないけれど、彼は焦っていた何かに答を見つけたらしい。
その後の彼の生活は穏やかとはかけ離れた事も多々あったけれど、見つけた幸福を大事に精一杯生きたようだ。
…
…
…
「これで三回目。…でも、きっと全部同じ彼の人生。…これはどういう事だろう」
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