第八章 望郷の小夜曲
第七話 捜索隊
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「よろしいですか陛下。今回はたまたま何も起きなかったですが、これからもそんな幸運が続くはずはありません。……以前のようにとは言いませんが、もう少しで―――」
「―――わかっています」
とうとうと語りかけていたマザリーニを止めたのは、何時の間にか俯かせていた顔を窓に向けていたアンリエッタだった。
「確かに気が抜けていたかと思いますが、しかし手を抜いた覚えはありません」
「そうですな。皆様が引くほどの貪欲さを見せておりましたからな」
諸国会議では、アンリエッタは初日の氷人形のような様子とうって変わり、まるで飢えた獣のような様子で会議にあたった。その貪欲さは、会議に参加した全員が思わず頬をヒクつかせながら「まるで獣だな」とそろって呟くほどであった。
「……褒めているのかしら、それとも貶しているのですか?」
「勿論褒めているのです。他の国よりも領土も資金も少ない我が国には、少しの土地でも必要なのですから」
「それにしては顔が青ざめていますわよ」
「……気のせいで……背中を向けたまま分かるはずがないでしょう」
背中を向けたまま話しかけてくるアンリエッタから、マザリーニは青ざめた顔を背けながら呟く。
「そうですか? 少し声に張りがないような気がしたので……もう遅いですし、先に休んでください。わたくしはもう少しここで月でも眺めています」
「……わかりました。ではお言葉に甘えて休ませていただきます。陛下もお早くお休み下さいませ」
「……ええ」
顎に手を当て小さく頷いたマザリーニは、深々とアンリエッタの背中に頭を下げると、部屋から退出していった。扉が開き、閉まる音が部屋に響く。ぽ〜とした顔で窓の外を眺めていたアンリエッタだったが、部屋に扉が締まる音が響き暫らく経つと、ゆっくりと椅子から立ち上がり、ベッドの前へと歩いていき。
「えい」
小さな掛け声と共にベッドに向かって飛び込んだ。
成人男性が横に五、六人は寝ころがれる大きなベッドの端から端までゴロゴロと何度も転がりながら唸り声を上げて始め。
「う〜、う〜、む〜、ん〜……、う〜……ん…………はぁ……」
小さな溜め息と共にピタリと動きを止めた。
「よし」
熱がこもった泥が身体の奥に溜まっているかのようなだるさに襲われ、時間と共に重くなる瞼に必死に耐えながら、アンリエッタは枕元にある女官を呼ぶための紐を引いた。
のろのろと伸ばされた手が紐を引くと、直ぐに扉の向こうから女官の声が聞こえてくる。
「お呼びでございますか」
「アニエスは」
「いえ、アニエス様はお戻りにはなっておりません」
アニエスの名を口にしただけで、女官はアンリエッタが聞きたかったことに答え
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