第百二十八話 促しその十二
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「何処も弱兵ではないか」
「十九万いてもでありますが」
「烏合の衆じゃ」
朝倉の兵と比べてもだというのだ。
「所詮はな」
「では」
「幾ら攻めて来ようとも朝倉家の相手ではない」
所詮は、と言う。これが義景の言葉である。
「案ずることはないわ」
「では戦もですか」
「うむ、当家には大叔父上がおられるではないか」
これまで朝倉家を政戦両略で支えてきた他ならぬ宗滴に対して言う、少なくとも義景は宗滴に対して全幅の信頼を置いている。
その信頼と共にこう言うのだ。
「何十倍の一向宗を破られた大叔父上がな」
「確かに。その時になれば」
義景は初陣こそ経ているがどうにもならないまでに戦が下手だ、それで今も宗滴が一線に立っているのである。
だが義景はこのことを自覚しないまま言うのである。
「では頼んだ」
「さすれば」
こうして朝倉家は織田家との戦も辞さないということで話がついた、家臣の殆どもこのことには異を述べなかった。
「宗滴殿がおられるなら」
「ですな、例え武田や上杉が来ても怖くはありませぬ」
「ましてや織田なぞ」
「ただ兵が多いだけではありませぬか」
「相手にするに造作もない」
「何も心配はありませぬな」
こう平然と言ってであった。彼等も事態を楽観していた。
誰もが宗滴の采配を頼りにしていた、だが。
当の宗滴は己の屋敷に戻ってから彼の側近達に対して密かにこう述べたのである。
「危ういわ」
「殿は織田家との戦も辞さずとか」
「右大臣殿の文を無視されるのですか」
「そう決められたとか」
「その通りじゃ」
宗滴もまさにそうだと返す。
「殿はそう決められたわ」
「しかしそれは」
「あの織田家を相手にするということ」
「十九万の兵を相手にするとなると」
「かなり厄介であります」
「十九万あっても来る兵は多くて十万じゃ」
宗滴がここで言った。
「多くてな」
「十九万ではありませぬか」
「十万ですか」
「織田家の領地は広くなった」
越前に来るであろう兵が十万である理由はこのことにあった。
「毛利や武田と境を接しておる」
「そういった家に兵を割かなければならないからですか」
「それでなのですか」
「そうじゃ、どの国も空には出来ぬ」
「確かに。山賊や海賊ですな」
「そうした連中がいますな」
「国を安んじる為には兵が必要じゃ」
悪者を取り締まるなり何なりして、である。宗滴は政においても朝倉家を支えている為このことがよくわかっているのだ。
「だからじゃ」
「織田家は都も預かっていますし」
「それで、ですな」
「うむ、それでじゃ」
まさにその通りだった。
「ここに来るのは十万じゃ」
「流石に十九万はありませぬか」
「織田の全ての兵で来ることは
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