第百二十八話 促しその十
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「それが気掛かりじゃ」
「もしもです」
年老いた家臣が言う。
「織田家との戦になれば」
「その時はか」
「どうされますか」
「出るしかあるまい」
戦にだというのだ。
「やはりな」
「左様ですか」
「しかしじゃ」
しかしそれでもだというのだ。
「果たしてその時に戦えるかじゃ」
「今すぐにでもありますか」
「また言うがわしも八十を超えておる」
古稀どころではない、それをさらに超えている。
「それではじゃ」
「何時そうなってもでありますか」
「実際にそうじゃ。織田家との戦の時に生きておられればよいが」
その時にだというのだ。
「しかしな」
「それもですか」
「わかりませぬか」
「この歳じゃからな」
どうしても歳を気にせねばならなかった、宗滴は。
しかしそれでもだ、彼はこう言うのだ。
「それでも家は守る」
「はい、殿がいなければ当家は」
「最早」
「わしの若い頃も今も」
つまり彼がいる間常にだった。
「とてもな、他にはな」
「おられませんでしたな、どなたも」
「他の方は」
「わしがいなければ朝倉家はどうなるのか」
このことが宗滴の心からの心配ごとだった、だがそれは気心が知れた己に長年仕えている者達だけに言えることだった。
彼は越前に入ると沈黙した、そしてだった。
義景の前に戻って一礼してそれから文を差し出した。義景はその文を見てから宗滴に対してこう問うたのだった。
「大叔父上、それは」
「右大臣殿からの文です」
義景にありのまま答える。
「それです」
「あの者からの文か」
義景は彼の官位も認めたくはなかった、言うまでもなく義景よりも高い。
「それを読めと」
「はい」
「して大叔父上はもう読まれたのか」
「いえ」
首を横に振る、見れば封も切っていない。
「殿のそのままお渡しさせて頂きました」
「そうか、大叔父上らしいな」
「では殿」
そのうえで義景にあらためて言う。
「是非お読み下さい」
「わかった、それではな」
義景も宗滴の言葉に頷きそうしてだった。
封を開きそのうえで文を読む、すると。
義景の顔が見る見るうちに変わった、そのうえで顔を真っ赤にさせて言いだした。
「けしからん、何を言うのじゃ」
「殿、どうされました?」
「右大臣殿の文には何と書いてありましたか」
「上洛せよと言って来ておる」
まさにそうだというのだ。
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