第百二十八話 促しその九
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「天下人に足る方じゃ、いや」
「いや?」
「いやとは」
「創業だけではない」
それだけではないというのだ。
「守成もされる方じゃ」
「ただ起こすだけではなくですか」
「それもですか」
「そうじゃ、言うならば宋の太祖と太宗を合わせた様な方じゃ」
明のかつての王朝の二人の皇帝達である。尚太宗は太祖の兄であり兄弟で国を作り土台を築いたと言っていい。
「ご気質は違うがな」
「そのご資質はですか」
「それだけの方ですか」
「うむ、そうじゃ」
まさにそうだというのだ。
「その器もかなりの方じゃ」
「ではその織田殿に逆らうことは」
「やはり、でありますか」
「うむ、避けるべきじゃ」
是非にというのだ。
「それが朝倉の生きる道じゃ」
「ですか、ここは」
「そうされるべきですか」
「ただ家の力が違うだけではない」
宗滴はあえて言った。
「右大臣殿は天下を治められる方よ」
「これからもですか」
「一代ではなく」
「そうじゃ、そしてその右大臣殿の文じゃが」
それの話にもなった。
「殿にお見せせねばな」
「どういった文でしょうか」
家臣の一人がこのことを問うた。
「それで」
「いや、中は読んでおらぬ」
それはしていなかった。
「わしは人の文を読まぬではないか」
「はい、そうでした」
「そうしたことはせぬ」
決してだというのだ。
「それはな」
「礼に反するからでしたな」
「武士は礼節を守るものじゃ」
戦をするだけではなく、というのだ。
「だからじゃ」
「ですか、それでは」
「殿にそのままお渡しする」
中を読むことはせずに。
「そうするぞ」
「畏まりました」
「しかし。朝倉家はこれからどうなるか」
これは宗滴が昔から抱いている心配である、彼にとって朝倉家は絶対のものでありそれが為に守ってきたからだ。
それでこう言ったのである。
「わしも最早八十を超えておるわ」
「殿、そのことは」
「仰らぬ方が」
「わかっておるがな」
しかしそれでもだというのだ。
「だが」
「左様でありますか」
「今死んでもおかしくはない」
その高齢故にである。
「むしろ今まで生きておる方が不思議じゃ」
「ですか」
「真にな」
自分で一番わかっていることだった。
「そしてわしがいないとなると」
「朝倉家はですか」
「どうなるのかのう」
憂いに満ちた顔での言葉だった。
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