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戦国異伝
第百二十八話 促しその七

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 その中で信長はあえて言うのだ。
「違うがな」
「残念なことです」
 柴田がまた言う。
「どうも公方様jは近頃殿を避けておられますな」
「そうじゃな」
「まあそのことは置いておきまして」
 わかっているからこその言葉だ、その理由は。それを宗滴に聞かせることは政の中を見せることなのでしなかった。
 それで柴田は今度はこう言ったのである。
「宗滴殿は甘いものはお好きでしょうか」
「菓子でありますか」
「はい、南蛮から渡来した菓子がありますが」
「南蛮からとは」
「南蛮には大層珍しい菓子が多くありまして」
「どういったものでありましょうか」
「饅頭を四角くした様な」
 その菓子のことを宗滴に説明する。
「そうしたものであります」
「四角い饅頭とは」
「葡萄牙という国からの菓子です」
「南蛮の国の一つですな」
「はい、そこからの菓子です」
「どういった菓子でありましょうか」
 宗滴はいぶかしみながら柴田に問うた。
「四角い饅頭と言われましても」
百聞は一見に然ず」
 ここで信長が言った。
「まずはその菓子を御覧になられよ」
「馳走して頂けますか」
「無論じゃ」
 それは当然だと返す信長だった。
「では皆もその菓子を食するのじゃ」
「はい、それでは」
「喜んで」
 織田家の者達も幕臣達も応じる、こうしてだった。
 綺麗な狐色で上下が薄い焦茶色の皮になっているふわふわとした海綿の様なものが出された、それはまさにだった。
「確かにこれは」
「四角い饅頭ですな」
「如何にも」
 宗滴はその菓子を見ながら柴田に答える。
「その通りですな」
「これがまた実に美味でありまして」
 皿の上のそれを見ながら宗滴に話す柴田だった。
「ではどうぞ召し上がって下され」
「しかしこの南蛮の菓子は」
 宗雫は菓子をまじまじと見つつ言う。
「それがしもはじめて見る珍品、高いのでは」
「いや、それは言わないということで」
 羽柴が右手をひょいと前に動かし笑って言った。
「お願いします」
「しかしおそらくですが」
 まだその菓子を見ている、そのうえで言うことは。
「この菓子には砂糖が使われておりますな」
「ほう、わかるか」
「小豆を使った形跡はありませぬ」
 日本の菓子は甘味は小豆から取る、しかしこの菓子にはそれが見られない。それならばというのである。
「さすれば」
「まあ細かいことは言わぬことじゃ」
 信長も言ってきた。
「ここはな」
「では今は」
「さあ召し上がられよ」
 客人にも話す。
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