第十六章 破滅
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」
「昔のことだ。もう、忘れた。それよりお似合いだな。」
「・・・・」
「二人のことだ。」
石井は五十嵐を強く抱きしめた。暖かい肉体だった。
「結婚するのか。」
「ええ、そのつもりです。」
石井が答え、五十嵐はにこりと微笑んで石井を見上げた。
「まったく見せ付けるね。」
これまでのドタバタ劇が嘘のようにゆったりと長閑な時間が流れている。石井がふと思い出したように聞いた。
「さっき落ちていったのは教祖ですか?」
「ああ、このくそ寒いのに海に飛び込んだ。」
「あれがやはり教祖だったんだ。その前に満が落ちていったようだけど?」
「ああ、教祖が突き落とした。満は生きたままあの世の地獄に落ちていった。俺は生きたままこの世の地獄にいる。似たもの同士ってことさ。」
片桐がことさら大きな声を上げて笑ったが、二人は黙ったままだ。
次第に体温が戻ってきている。石井は五十嵐を抱きしめ、瞑目している。言葉が途切れ、片桐は操縦桿を握り前方を見詰める。石井に話しかけてきた時、片桐は一度も振り向かなかった。それに無理に声を弾ませているように思え、もしかしたら泣いているのではないか、石井はそんな気がしていた。
石井は五十嵐を抱く腕に力を込めた。五十嵐は石井の胸で寝息をたてている。ふと安堵の内にあの歓喜が蘇る。石井は思う。真理は単純であればあるほど気付きにくい。しかし、眼下に見えた雲の動きは、石井にインスピレーションを与えてくれた。
世界的な量子力学の権威であるデイビッド・ボームが言う。「1立方センチの中のエネルギーは、宇宙の今までに知られているあらゆる物質の総エネルギー量をはるかに超えている」と。つまり1立方センチの空は宇宙を創造するほどのエネルギーを秘めていると言うのだ。
つまり、空は無限のエネルギーを有する。星や銀河が生成と消滅を無限に繰り返す宇宙も、或いは無限に膨張する宇宙も、無限のエネルギーを有する者のみが創り得るのである。つまり宇宙の創造者は空だ。そして全ての宗教に共通する教義は、神が宇宙を創造したということ。だとすれば、宇宙を創造したのは空なのだから、空こそが神ということになる。
物質の本質についても、石井の得たインスピレーションは非常に単純なものだった。物質は突如何もない空から生じる。どのように?実は空自らが振動して素粒子へと変貌するのである。物質の最小単位と言われるクオークは空の振動によって作られる。
我々の体を構成する全ての原子は空の波動によって生じる。つまり我々は空から生じたというより、実は、空がその姿を変えているに過ぎず、物質化した空なのである。
この事実は、我々の心或いは意識というものも説明出来る。つまり、我々が空そのものであるなら、そこから生じる想念波動もやはり空ということである。物質化した空から生じた想念化
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