第十六章 破滅
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い。
男は消えたかと思ったらすぐ姿を現し、憎々しげに睨みすえ、腰を落とすと脚でパイプにつかまる石井の拳を蹴り始めた。痺れかけた手には痛みは感じないものの、パイプを掴んだ指が徐々に力を失ってゆく。ずるずるパイプから指が滑る。
渾身の力を込めて握ろうとするのだが、指先が震えるだけだ。一瞬、走馬燈のようにこれまで歩んできた人生の断片が浮かんでは消えた。これがあれか!と思った瞬間、手が完全にパイプから離れた。体が完全に宙に浮いた。
腹にどすんという衝撃を受け我に返った。まだ体はヘリコプターから放たれてはいない。少し前、手元があやしくなってきたので、ベルトをパイプに通していたのだ。体はそのベルトによってヘリコプターと繋がっていた。
男は舌打ちして、腰を浮かせてパイプに脚を掛けた。両足を器用に操り、ベルトをはずそうと試みている。しかし、石井の全体重を支えるベルトはそう易々とはずれるものではない。男は意を決してパイプに降り立った。朦朧とした意識の中、石井は覚悟を決めた。
その少し前…。
杉田は、満をキャビンから突き落とした。すぐさま後方のドアを開けると落下してゆく満に向かって叫んだ。
「ざま見ろ、ざま見ろ、地獄に落ちろ。はあ、はあ、はあ・・・ん、何だ?誰だ貴様は。」
杉田が振り返り片桐に言った。
「片桐、銃を貸せ。もう一匹地獄に叩き落してやる。石井だ。香子をたぶらかした奴だ。殺してやる。おい、銃をよこせ。」
片桐が答えた。
「お前の命令は聞かん。それに重雄を撃ったのが最後の弾だ。そんなに殺りたければ蹴落とせばいいだろう。その自慢の長い脚でよ。」
二人は睨みあった。教祖は力なく笑い、背中を向けしゃがみこんだ。片桐が五十嵐に声を掛けた。
「おい、お嬢さん、恋人が下にいる。」
五十嵐は驚いて片桐を見た。片桐がにやりと笑う。意味が分からない。首を左右に振って意味を問う。片桐が顎をしゃくった。五十嵐は片桐が示した方を見た。教祖が手すりにつかまり、片足で何かを蹴っている。片桐が言った。
「教祖を蹴落とせ。恋人が危ない。」
はっとして教祖の後姿を見詰めた。教祖は下にいる石井を蹴落とそうとしている。思わずかっと血が騒いだ。教祖は両側にある手すりにつかまって、右足で石井を蹴っている。しばらくして、下に降り立った。五十嵐は咄嗟に手すりを握る教祖の右手を蹴った。教祖の右手がはずれ体が前に傾いた。
すかさず思い切り左手を蹴った。その手が手すりから滑った。くるりと体をこちら側にむけた。一瞬途方にくれるような表情を浮かべ、ついで恐怖に顔を引き攣らせた。ゆっくりと落ちて行く。五十嵐は呆然と立ち尽くしていた。
「おい、ロープを切ってやる。こっちに腕を向けろ。」
後ろで片桐の声が聞こえた。
石井は飛行するヘリと一心同体になっていた。パイプと平行
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