第十六章 破滅
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込まれたありったけの食料と水。誰にも頼めず教祖と二人で運んだ。満の指示が性急過ぎて、十分に用意は出来なかったのだ。
これのために重雄を殺した。息子同様散々殴りはしたが、どこか捨ててきた息子の面影を求めていた。しかし重雄が自分達に加わろうとした時、無性に腹が立ったのだ。四人がようやく三月食いつなぐ程度の食料だったからだ。
ぎっしりと詰め込まれた食料、そこにどう紛れ込んだのか赤い靴下が一足垂れ下がっている。それが舌のように見え、まるで自分の浅ましさをあざ笑っているかのようだ。ぐったりとするような虚無、冷や汗が滲み出てきそうな羞恥、死んでしまいたかった。
突如、片桐の心にふつふつと怒りが沸き起こった。そして教祖を睨みつけながら叫んだ。
「おい、教祖さまよ、どうする警視庁のヘリが追ってくる。逃げ切れない。おい、どうするつもりだ。えっ、どうなんだ、教祖さまよ。」
教祖は頭を抱え、下をむいたまま顔をあげようとはしない。教祖の口からもう呻き声は聞こえない。絶望を吐き出し終えたのか。片桐は、頭を抱え込み、がたがたと体を震わせている教祖を憎憎しげに睨みすえた。片桐がまたも吼えた。
「こんな男のために、俺は人生を棒に振ったのか。こんなクズみたいな男のために。」
惨めさを怒りに変えて叫んだ。
「女房も子供も捨てた。こんな男のために。」
叫んでさらに惨めさが増した。理不尽な思いが拳を動かし、その拳は唾を飛ばして喚き続ける満を殴りつけた。満はそれでも狂ったように喚き続ける。狂気は伝染する。片桐が怒りを爆発させた。
「教祖様よ、どう始末をつけるつもりだ。えっ、どう責任をとるつもりなんだ。俺がけりをつけてやろうか。この胸の拳銃で。えっ、どうなんだ。その取澄ました顔に風穴をあけてやろうか。」
杉田がひょいと顔を上げた。その目は血走り、狂気と憤怒に満ちている。そして満に向かって突然叫んだ。
「貴様のせいだ。貴様が全ての元凶だー。」
いきなり後ろから満の首を絞めて強引に揺すった。満が喚きながら必死で抵抗する。杉田は右手で満の顔面を殴り始める。
「貴様が、貴様が、俺を破滅へと導いた。思い知れ、思い知れ、殺してやる。殺してやるんだ。いつかこうしようと思っていた。お前は俺の可愛い息子の体を乗っ取った。お前は俺から息子を奪ったんだ。何がペテロだ。貴様がペテロでないことなど最初から分かっていた。」
杉田はぐったりとした満を脇に押しやり、身を乗り出して前のロックを解除しドアを開けた。強烈な風がキャビンを吹き抜ける。両手で満の体を抱き起こし突風に晒した。
「何故、何故、お前は俺の前に現れた。お前のためにこんな現実に向き合うはめになった。殺しても飽き足らない。」
ぐったりとしていた満が目を開き、にやりと笑った。あのしわがれた声が響く。
「お前が、俺を呼んだ。あの日、会社
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