暁 〜小説投稿サイト〜
予言なんてクソクラエ
第十六章 破滅
[3/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初

「39、38、36、35、・・・」
杉田と片桐は息をひそめてその瞬間を待っていた。11時26分まで、あと
「30、29、28・・・・・・・」
この数年、彼等を恐怖のどん底へと陥れた最悪のシナリオが今現実になろうとしていた。じっと眼下を見詰めた。ビルと言うビルが倒壊し、ついで襲う大津波、生き残るのは僅かな人々だけだ。そしてその僅かな人々に自分が選ばれているのだ。恐怖と恍惚、戦慄と歓喜、奇妙に交錯する感情をもてあましていた。満の声も興奮してきている。
「7,6,5,4,3,2,1、ゼロ」
杉田と片桐は息を殺し、何事も見逃すまいと眼下を凝視した。その瞬間、満が歓喜に満ちた叫び声をあげた。あのしわがれ声だ。
「やったぞ、やったー。あれを見ろ。ビルというビルが崩れてゆく。街が波打っているのが分かるだろう。どうだ、俺の言ったとおりだ。そうだろう。わっはっはっは」
二人は必死で目を凝らした。しかし何も起きてはいない。遠くにみえる新宿の高層ビル群も、眼下の街並みも何ごともなく、静かに佇んでいる。
杉田と片桐が呆然として顔を見合わせた。
 しかし、二人には見えなくても、満には見えていた。何度も何度も夢に現れた未曾有の大破壊、満の復讐心を満たしてくれたあの日本沈没の序曲が始まっだ。満のしわがれた叫び声が響く。
「大竹清美、思い知ったか。俺はお前に救いの手を差し伸べた。しかし、お前はこの俺を警察に売った。バイタめ。お前の体はいまごろずたずたになって瓦礫の中に埋まってしまっただろう。ざま見ろ。渋谷で俺を馬鹿にした女達もしかりだ。」
満の吼える声は続く。杉田の顔が歪んだ。途方に暮れているような、泣き出しそうなその目は現実を見ようとはしていない。現実はあまりにも残酷すぎる。杉田は目を両手で覆い、大きな唸り声をあげた。片桐が左手で満の頬を打った。
「何も起こってはいない。大災害なんて起こってなんかいない。」
しわがれた声が轟く。
「お前には見えないのか。眼下で繰り広げられている地獄絵図が見えないのか?ほら五度目の大振動だ。見ろ、見ろ、あの東京都庁が崩れる、倒壊し始めた。」
満は歓喜の声を張り上げる。片桐はあんぐりと口を開けて満を見詰めた。
「こいつ、狂ってやがる。11時26分ってのは、自分が壊れる時間だってことか。」
そう呟くのがせいぜいだった。がくっと肩を落とした。こんな現実が待ち受けていようとは思いもしなかった。「なんてこった、なんてこった。」とつぶやき、次の瞬間、片桐は狂ったように笑い出した。
 満の恨み節、杉田のうめき声、片桐の高笑い。その空間は狂気が支配していた。猿轡を噛まされた五十嵐は、狂気の嵐のなか、ただ目を見張るばかりだ。
 暫くして片桐の高笑いが止んだ。操縦桿を握りながら後ろを振り返った。後部座席と格納スペースにぎっしりと積み
[8]前話 [1] [9] 最後 最初


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ