第十六章 破滅
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飛んで床にはガラス片が散乱しています。恐らく震度6以上と思われますが、被害の状況など、これからお伝えしようと思います。」
杉田は苛苛しながら待った。次にもっと大きなのが来る。それが地面を1メートルも持ち上げるという巨大地震なのだ。血走った目で階段のドアを見つめた。そのドアが開いた。満と片桐が走ってくる。杉田は歓喜の声を上げた。
「間に合った、良かった、良かった。早く、早く。」
片桐がヘリのドアを開け、満を前の座席に座らせ、自分も操縦席についた。満が後ろを振り返って声を張り上げた。
「パパ、会いたかったよ。いったい何処に行っていたの。本当に長い出張だったね。」
その表情は何の屈託もなく無邪気な子供のそれで、まして声が子供の頃に戻っている。杉田は背筋に悪寒を感じながら、へどもどして答えた。
「ああ、ああ、長い出張だった。」
その時、片桐がエンジンをかけながら叫んだ。
「満さんの話では、邪魔が入って時間をとられたそうです。巨大地震まであと5分です。11時26分が運命の瞬間だそうです。」
ロータが唸りを上げ始めた。杉田が叫んだ。
「よし、飛びたて。」
ヘリは何度乗っても気持ちの落ち着かない乗り物だった。しかし、と杉田は思う。満の声が昔のそれに戻っている。かつて妻と満を名古屋の実家に残して東京に2年ほど単身赴任していた。そこで会社をクビになったのだが、確か満が声変わりする前だ。顔もその頃のように幼い印象を受ける。
突然、窓ガラスに人の顔がへばりついた。驚いて見ると重雄だ。何か叫んでいる。片桐が窓を開けて怒鳴りつける。轟音で何も聞こえない。片桐が胸から拳銃を取り出すのが見えた。青い煙が上がった。顔を血にそめた重雄が後ろに飛んだように見えた。いや、ヘリが飛び立ったのだ。
ヘリはホバリングしながら方向を変えた。その時、石井はようやく屋上にたどり着き、ヘリコプターのなかに五十嵐がいるのを認めた。石井は全力疾走でヘリに向かって駆けた。途中で若い男の死体が転がっていたが気にもしなかった。浮き上がる寸前、石井は着陸用のパイプに取り付いた。思いのほか太い、十分に握れない。
片手が離れた。もう終りかと思った。ふと見ると、ヘリは屋上のフェンスの上を通り過ぎようとしている。石井はそのフェンスを思い切り蹴って、パイプに両手両脚を巻きつけた。徐々に前方に移動し、交差するパイプに手を伸ばし、体を起した。
ヘリは思ったより大きい。ドアの取っ手をつかもうとするのだが、とても届かない。いろいろやってみたが体を支えるのがやっとのことだ。ふと眼下の光景を見て、尻の穴がむずむずして下半身が縮みあがった。石井は思い出した。高所恐怖症だったのだ。それに加え、刺すような冷気が体の体温を奪って行く。ヘリは高みへ高みへと上昇していった。
キャビンの中では、満が秒読みを始めていた
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