第十六章 破滅
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(一)
石井は意識を失っていた。数分なのか数秒なのか分からない。朦朧とした意識の中に男達の争う声が入り込んできた。覚醒するに従い体中がずきずきと痛み、呻き声を上げそうになったが、漸く堪え男達の声に耳を澄ませた。
「おい、重雄、何処に行こうってんだ。俺達はここでこの階の秘密を守るんだ。それが役目だ。持ち場を放棄しようってえのか。」
「いや、ちょっと……。」
「いや、ちょっとじゃねえよ、この馬鹿野郎。」
別のもう一人が怒鳴った。石井は薄目を開け、様子を窺った。茶髪の後姿が見える。仁王立ちしている。その前に坊主頭が重雄と呼ばれた男の襟首をつかんで、今にも殴りかからんばかりの勢いだ。
石井はすっと立ち上がった。仁王立ちした男の陰で、三人は気付かない。さっきのお返しとばかり、石井は茶髪の股間を後ろから思い切り蹴り上げた。茶髪は突然の激痛に悶絶した。はっとして坊主頭が重雄の襟首から手をはなし、石井に突進してくる。石井は引き下がらず前に出た。
拳が飛んでくる。当たっても構わない。そのくらいの気構えがなければこの技の効き目はない。拳が頬を打った。距離が狭められた分、ダメージは半減している。石井はそのまま頭から突っ込んだ。強烈な頭突きで坊主頭が後ろに吹っ飛んだ。
重雄の姿がない。屋上だ、エレベーターのボタンを押した。反応がない。いくらボタンを押しても一階からそれは動こうとしない。ロックされている。石井は廊下を走った。ドアがいくつもあるが全て鍵がかかっている。
廊下のはずれに非常階段があった。耳を澄ますと足音がする。重雄も屋上を目指しているのだ。石井も階段を駆け上がった。途中で小林刑事に電話を入れた。小林はすぐ出た。
「満は今屋上にいます。私も階段で向かっているところです。ところでそっちは随分騒々しいですね。」
「ああ、我々も満を追ってビルの地下に入ったところだが、信者達の抵抗にあっている。結構、強面がそろっている。」
「そんなことより、ヘリの用意は出来ているのですか。はあはあ。」
「ああ、大丈夫。すでにこっちに向かっている。」
「とにかく、早く屋上に来て下さい。はあはあ。」
(二)
地鳴りが止んだ。時折空をオレンジ色に染めていた発光がなりをひそめ、雲ひとつない秋空が広がっている。嵐の前の静けさか。杉田はいよいよかと身構えた。その刹那ぐらぐらっと揺れた。強い揺れで、ヘリの四つロータが大きく傾きギーギーと音をたてた。
戦慄が走った。満の手紙に書かれていた通り強烈な縦揺れだった。この後にくる巨大地震まで殆ど間がないと言う。満は間に合うのだろうか。手すりにしがみつき脚を踏ん張って耐えた。一分ほどで揺れはとまった。慌ててラジオをつけると、アナウンサーが今の地震について話している。
「いやー、凄い地震でしたね。モニターが
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