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予言なんてクソクラエ
第十五章 予言の神秘
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     (一)
 サウナを出て、練馬駅前で立ち食い蕎麦を五六口で胃に流し込むと漸く力が湧いてきた。いかなる時も食欲は衰えない。どんな按配であんなに線の細いお袋からこんな男が生まれたのか不思議に思いつつ急ぎタクシーに乗り込んだ。
 昨夜のうちにコスモフーズの配送所の場所は確かめてある。駅前からワンメーターの距離だ。配送の仕事は朝が早いと思い、サウナの従業員に6時半に起こしてもらい急ぎ着替えて出てきたのだ。
 結局、横尾が出勤してきたのは8時半で1時間半以上も手持ち無沙汰な時間を過ごすはめになったが、出勤してきた横尾の反応は頗るよく、待った甲斐があったと言える。
「あんた磯田さんの友人だって。それはうれしいね。あの人は金払いが良かった。あんたもそうだと嬉しいけど。」
すぐさまポケットから封筒をだして手渡した。横尾は中身を確かめると、
「じゃあ、乗ってくれ。そういえば磯田さんはいつも防寒着を用意していたけど、そんな格好でだいじょうぶ。この車だけど。」
と言って、二台並ぶ一方の冷凍車を指差した。石井はしまったと思ったが後には引けない。後ろに回ろうとすると、横尾がにこりとして言う。
「冗談、冗談、今日、あそこに行くのは11時だ。それまでは助手席でいいよ。さあ乗ってくれ。」
配達の手伝いをしながら、辛抱強く時の経過を待った。焦っても始まらない。石井は煙草を一本取り出し、火をつけた。深く吸い込む。車が信号で止まった。横尾が大口を開けてあくびをし、そして涙を拭いながら言った。
「しかし、この群発地震、どうなっているんだろう?観測史上初めてらしいね。いよいよこの世の終りかね?」
「そうですね、でも世界的規模で起こっているんですから、この世の終りでもお互い恨みっこなしで、いいんじゃありませんか。」
横尾が怪訝な顔で石井を見た。
「世界的規模?それってどういう意味?」
「いえ、いえ、三日間新聞もテレビも見ていませんから詳しくは知らないのですが。」
石井は悟道会の予言が頭にあり、世界的規模と言ったのだが違うのか?
「日本だけですよ。」
「げっ、それって本当ですか?」
龍二の言葉が甦った。千葉沖を震源にしていると。地球的規模の大災害にしては規模が小さすぎる。笑いながら横尾が言った。
「世界中が注目していますよ。いよいよ日本が沈没するんじゃないかって。小松左京の日本沈没って本、知りません。テレビで取り上げていましたよ。」
石井は思わずうなった。すっかり忘れていたのだ。
「さあ、これから悟道会ビルにひとっ走りだ。直前に冷凍庫に入ってもらうよ。」
石井は頷きながら、記憶の糸を丹念にほぐしていった。そうだ、似ている、確かに似ているのだ。あの今世紀最高の霊能者と呼ばれたエドガー・ケイシーの予言にである。そして彼の予言はことごとくはずれたのである。 
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