第十四章 地獄からのメッセージ
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大切なことを忘れてました。」
ぴたっと足を止めた龍二だが、振り向きもしない。
「ちょっと待ってて下さい。今小林刑事の携帯の番号をメモします。ヘリを用意しておいてもらった方がいいと思って。」
はっとして龍二も振り向いた。
「いい考えだ、追跡用のヘリを用意しろと言えばいいんだな。任せておけ。だけどお前が電話した方がいいんじゃないか。」
「ええ、でもヘリのことは叔父さんほど詳しくありませんから、叔父さんの口から詳しく話して下さい。ヘリは用意した、でも追いつけなかったなんて洒落にもなりません。」
「よしそれなら任せておけ。何と言っても俺はヘリ博士だからな。」
そう言って、石井のところに戻ってきた。
「そうだ、真治、最後まで教祖と満を追い詰める。これがお前に与えられた仕事だ。しっかりやれ。しかし、いつ飛び立つとも分からんのに、警視庁はヘリを用意してくれるだろうか?」
「ええ、大丈夫だと思います。彼らは満を逃がすという大失態をしでかしたうえに、怪我人まで出した。やれることは全てやる気になっているはずです。満を捕まえなければメンツがたちません。」
「いや、もう怪我人はいない。その撃たれた警官は死んだ。とにかく、その小林刑事に掛け合ってやる。お前もしっかりやれ。」
それから一時間、苛苛しながら磯田の連絡を待った。しかし、なかなか掛かってこない。焦ってもしかたないと、肩の力を抜き、ふーと長い息を吐き、思った。叔父の言った通りだ。自分に与えられた仕事に最善を尽くす。これが一番大事なのだと。
石井の顔が自然とほころぶ。スエデンボルグの逸話を思い出したのだ。詳細は忘れたが、こんなエピソードだ。神に近づくために何か修行しなければならないかという問いに、彼はこう答えている。修行など必要ない。それより与えられた仕事に専念しなさいと。
彼に言わせれば、仕事は何らかの形で人の役に立っている。人のために役立つことが最も価値があると。これを読んで石井はスエデンボルグが好きになった。石井が今、何をすべきかも教えてくれている。
石井の顔が真顔に戻る。そうだ、せめてあの問題を解決していたら、どんなにすっきりしただろう。ケーシーもスエデンボルグもキリスト教をその思想の基盤としており、キリスト教が世界人口の35%でしかないことを思えば、彼らの言う神は世界の人々を納得させるだけの普遍性に欠ける。誰もが神を感得できる別の論理が必要なのである。
石井が思索を重ねる。人の喜びや悲しみ、哲学的思考から享楽的な感情まで、全ての想念波動は地上空間に残される。その人間が空間的に移動すれば想念波動もその軌跡を残しつつ移動する。これが個々の心を繋ぐ糸というわけである。
この想念波動は瞬間瞬間に発生した空間に留まり波動し続ける。人が悲しみの場に再び立つ時、その悲しみは瞬時に蘇る。
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