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予言なんてクソクラエ
第十三章 仮面
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汗を白いハンカチで何度も拭っていた。しかし今日見た教祖は、同人物とは思えないほど痩せ衰え、干からびたような印象を受けた。
 教祖は五十嵐を上から下まで舐めるように眺め、五十嵐の横に立つ男に声を掛けた。
「よし、いいだろう。下に連れてゆけ。」
何が「いいだろう」なのか分からなかったが、対面は数秒にしか過ぎなかった。そして同じ階のこの倉庫に入れられたのだ。ふと見ると、仏像の脇からもぞもぞと何かが這い出してきた。驚いて身構えたが、見るとやはり後ろ手に縛られた若者が立ち上がろうとしている。山口だとすぐに気が付いた。
「山口君?」
「えっ、僕のこと知っているんですか。」
と言うなり床に倒れ込んだ。慌てて近付いたが両腕が不自由なので如何ともしがたい。山口は自力でようやく立ち上がったが、よく見るとズボンの裾がすっぽりと足先を包んでいる。ズボンの裾を踏んでづけて転倒したのだ。五十嵐が笑いをこらえながら話しかけた。
「ちょっとパンツが長すぎるみたいね。」
「まったく佐々木のばばあ、いえ、この佐々木ってのはアルバイト先の事務員なんですが、こいつが、まあ、いい加減なばばあで、事務所にあった両面テープでパンツの裾上げをしたもんだから、このざまですよ。せめて糸で縫ってくれれば。」
「とにかく、石井さんも探してくれているわ。ふたりで頑張りましょう。」
「あれ、石井先輩の関係ですか。まったく先輩は持てるから。」
「そんなことはどうでもいいから、このロープを何とかしましょう。」
「僕もさっきから必死でやっているんですが、なかなかどうして上手く縛ってあります。敵ながらあっぱれってやつで。」
「ねえ、こっちにきて、背中あわせになって私のロープを解いてみて。」
二人は30分ほどで互いの手を開放することができたが、それから後はなす術もなかった。扉は鉄製でびくともせず、窓一つない構造だったからだ。

    (三)
 片桐は心の動揺を抑えながら、信者達を睨みつけている。今日、十二回目の地震が部屋全体を揺るがしていた。片桐の横にいる樋口、四宮、そして何故か名前で呼ばれる重雄が信者達と緊張した面持ちで対峙している。
 居並ぶ16人の信者のうち12人は片桐が選りすぐった親衛隊員だ。片桐はこれまで彼らを一般信者とは隔離して、どんな危険な任務も平然とやってのける人間に仕立てようと教育し洗脳してきた。しかし、1年という期間はあまりにも短すぎた。
満探索に、親衛隊員だけではなく一般信者も動員した。両者が親密になり過ぎるのを多少懸念してはいたが、緊急時ということもあり、放置してきた。それが今回の事態を招いたのだ。
 恐らく親衛隊員は、一般信者から家宅捜査のことを吹き込まれ、煽られたのだ。しかし、あの公園から親衛隊員を引き上げさせたのは正解だった。いくら満を守るためとはいえ、や
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